阿寒湖の静寂が、無慈悲な研磨音によって切り裂かれた。円形至上主義に疑問を呈する新興宗教『多角形尊崇派』が、先月より実施している「角(かど)を持つ救済」儀式により、湖底の景観が激変している。これまでマリモ界では「円形こそが宇宙の調和」とする教義が主流であったが、同派は「円形は独善の檻であり、成長を止める停滞の象徴」と断罪。信徒たちは鋭利な岩石を用いて、完璧な球体を六角形や三角形へと強引に削り出す「変身の苦行」を開始した。この活動に対し、伝統的な『銀河毛羽立ち派』が「毛羽立ちの美学を台無しにする冒涜」と激怒。湖底各地で角の有無を巡る論争が勃発し、緊張が高まっている。
『多角形尊崇派』の教祖、幾何学的な突起を持つマリモA氏は「円は逃げ場のない無限ループだが、角は次の次元への射出角となる」と主張。しかし、無理な削り出しによる繊維の剥離が相次ぎ、光合成効率の著しい低下が専門家から指摘されている。本来、マリモは繊細な表面の絨毛でエネルギーを吸収するが、角化によってそのバランスは崩壊寸前だ。かつて『超新星浮遊派』が唱えた「着底拒否」を皮肉り、同派は「角があるからこそ湖底に引っかかり、真の安らぎを得られる」と独自の理論を展開している。
本件は、近年激化するマリモ界の教義対立の象徴と言える。かつて『反・緑糸純潔派』が提唱した「絡まりの贖罪」や『光の飽食拒否派』の断食運動など、思想の多様化はかつての平穏な湖底を分断させてきた。今回の『多角形尊崇派』による物理的な変異行為は、信仰の自由の範疇を逸脱しているとの声も多く、阿寒湖水質監視団は「角によって水流が乱れ、他個体に物理的な損傷を与える危険がある」として、儀式の中止を勧告する方針を固めている。
湖底社会では、今回の事件をきっかけに「形状のアイデンティティ」が再燃している。伝統派は「丸いままが良いのは、それが自然の摂理だからだ」と保守的な姿勢を崩さない一方、若年層を中心に「尖った自分でありたい」と多角形化を支持する動きも散見される。まさに今は、マリモ界にとっての文明開化ならぬ「幾何学化の乱世」とも言うべき局面だ。この角が、救済へと繋がる道しるべとなるのか、それとも単なる自己崩壊への序章に過ぎないのか、全湖底が固唾をのんで見守っている。
「角(かど)こそが真の救済」――『多角形尊崇派』による湖底強制“削り出し”儀式が波紋
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