今回個展を開いた羽田野蔵之介氏(42)は、過去3年間にわたり、自宅のキッチンでひたすらトーストを焼き続けてきた。その動機について、「トーストが完璧な黄金色になる瞬間に、宇宙の真理が見えた」と語る。羽田野氏は、通常の焼き加減では飽き足らず、パンの焼き色濃淡をピクセルに見立てる『トースト・ドット・アート』という独自技法を開発したという。

展示会場に並んだのは、1万枚の食パンを使用したモザイクアートの数々。代表作の『微笑む科学者』は、パンの焦げた部分とそうでない部分を巧みに使い分け、誰が見ても「どこかで見たことはあるけれど誰だか特定できない中年の男性」に見える仕上がりになっている。来場者からは「パンの香ばしい香りが漂うギャラリーだが、全体的に苦い」と困惑の声が上がった。

制作過程において最も苦労したのは、「いかに均一に焦がすか」という点だった。羽田野氏は当初、トースターのダイヤルをミリ単位で調整していたが、それでは表現に限界があることに気づき、最終的にはドライヤーとピンポイント火炎放射器を自作して運用するという過激な手法に出た。これにより、パンの耳の部分が見事に炭化し、キャンバスとしての耐久性が飛躍的に向上したという。

しかし、このアート活動には意外な落とし穴もあった。個展の会期中、会場内でパンの焼ける匂いが充満しすぎた結果、近隣の住民が「朝食の時間と勘違いして空腹で倒れる」という緊急事態が発生したのだ。これを受け、会場には急遽「お腹が空いても絶対に食べないでください」という注意書きが掲示されることとなった。

プロジェクトの最終目標について羽田野氏は、「将来的には、世界中のパンを焦がして地図を作るのが夢」と壮大なビジョンを掲げる。しかし、アートの寿命については「湿気に非常に弱いため、梅雨が来たらすべて終了します」と極めて冷静に分析しており、その刹那的な芸術観が逆にファンを増やしている。

なお、個展の最後を飾る新作として発表されたのは、鏡に向かって焼き上げた『自分自身の肖像画』である。しかし、肝心の鏡写しを左右逆に設定して焼いてしまったため、出来上がったパンはどこからどう見ても、のっぺらぼうにしか見えないという悲劇的なオチを迎えた。