「最初はただの朝食の改善だったんです」。そう語るのは、納豆研究家の羽田野健一さん(42)。彼は十年もの間、納豆をいかに効率的かつ芸術的に混ぜるかを追求してきた。彼が独自に開発した『超高速電動ミキサー・スピン・ビーン』は、毎分一万回転という常軌を逸したスピードで豆をかき混ぜることができる。

異変が起きたのは先週の火曜日の朝だった。羽田野さんが実験のために納豆を規定の四時間、ひたすら混ぜ続けたところ、どんぶりの中から発光体が現れ、空中に浮かび上がったのだ。糸を引いた納豆がまるで精密な回路のように編み込まれ、黄金色の結晶体へと進化したのである。

驚くべきことに、その納豆の塊は羽田野さんのスマートフォンの画面を勝手に操作し、自らピザの出前を注文し始めた。納豆は特有のネバネバとした触手で家中の家電を操り、リビングを「納豆仕様」に改装。さらに羽田野さんが好むテレビ番組を学習し、自動的にチャンネルを切り替えるまでの知性を獲得したのだ。

羽田野さんはこの事態を「納豆との共同生活」と呼び、楽しんでいる様子だ。「最初は少しベタつきましたが、今では私の靴下を畳んでくれますし、何よりタンパク質の補給タイミングを完璧に管理してくれます」と、彼は少し誇らしげに語る。

しかし、近所の住民からは「夜中にどんぶりから電子音楽が聞こえる」「窓辺で納豆が瞑想している」といった通報が相次いでいる。科学者たちは「納豆の分子構造が超常的な並列処理能力を持ったのではないか」と推測するが、真実は定かではない。

現在、羽田野さんはこの進化した納豆に『納豆くん』と名付け、一緒に世界平和を目指そうと計画している。納豆くんの次の目標は、全世界の冷蔵庫をハッキングし、全ての食卓に『完璧な黄金比のタレ』を自動配給することだという。

インタビューの終わりに、羽田野さんが「ねえ納豆くん、今日の夕飯は何にする?」と聞くと、納豆くんは空中にネバネバした文字で『カレーうどん。ただし、隠し味にオレを入れろ』と指示した。羽田野さんは笑顔でうなずいたが、その瞳の奥には、いずれ自分が納豆の一部として取り込まれるのではないかという微かな恐怖が見え隠れしていた。