羽田氏の理論は極めてシンプルだ。時速20キロで全力疾走し、その際に生じる空気抵抗と、腰に装着した特製耐火ベルトとの摩擦熱を最大限に活用すれば、生地は数分で焼き上がるというものだ。

早朝、パン生地を専用のアルミケースに入れ、腰に巻き付けて住宅街を疾走する羽田氏の姿は、まるで着火したロケットのようである。実際、先週火曜日には、彼の腰から発生した火花が枯葉に引火し、消防車が出動する騒ぎとなった。

「最初は生焼けでした。しかし、時速をあと5キロ上げ、かつスナック菓子を食べながら走ることで、代謝が上がり熱効率が劇的に改善したのです」と羽田氏は語る。彼の語る内容には、栄養学や物理学の常識が一切含まれていない。

開発の経緯について尋ねると、彼は真剣な眼差しでこう答えた。「毎日パンを焼くのが面倒で、トースターを買い忘れただけです。走ればカロリーも消費するし、まさに一石二鳥だと思ったんです」。

現在は、クロワッサンを焼くための「旋回加速」や、バゲット用の「急停止制動」など、高度なテクニックの開発にも余念がない。羽田氏の後ろには、いつも焼きたての香ばしい匂いと、少し焦げ臭い煙が漂っているという。

近隣住民からは「朝から香ばしい匂いで目覚めるのはいいが、煙が目にしみる」「彼が通るたびに庭の芝生が焦げる」といった苦情が寄せられているが、羽田氏は「それは私の焼き加減がプロレベルに達した証拠」と胸を張る。

最終的に羽田氏が目指すのは、フルマラソンで食パン一本を焼き上げることだという。しかし、残念ながらこの日のインタビュー中、彼が着用していた特殊ベルトが故障し、ベルトごとパンが空高く射出され、近所の川に水没するという結末を迎えた。