近所に住む会社員の田村茂造さん(42)は、幼少期から「納豆の粘り気こそが宇宙の真理である」と信じて疑わない筋金入りの納豆愛好家です。田村さんは市販の納豆かき混ぜ棒では満足できず、週末のたびに改良を重ね、最終的に工業用の小型モーターとドリルを組み合わせた『究極の攪拌システム・ネバネバ・ターボ』を完成させました。

開発のきっかけは、テレビで見かけた洋菓子のメレンゲ作りでした。「空気を含めば体積が増えるなら、納豆も同じ理屈で無限に増やせるはずだ」という、科学的には少々飛躍した仮説に基づき、田村さんは計量カップ一杯の納豆に、このターボを直結しました。

事件は先週土曜日の午前8時に発生しました。田村さんが装置のスイッチを最高出力の『マッハ3』に入れた瞬間、納豆は凄まじい遠心力を受け、カップの縁を越えてキッチン中に飛散。単なる飛散ではありませんでした。それはまるで生き物のように膨らみ続ける、淡いベージュ色の粘液の塊だったのです。

「最初は驚きましたが、計算通りでした。粘液が空気に触れて細胞分裂(のようなもの)を起こし、シンクから冷蔵庫、そして天井へと侵略を開始したのです」と田村さんは当時の興奮を振り返ります。リビングにまであふれ出した泡は、彼の愛犬さえも『大きなきな粉もち』のような見た目に変えてしまいました。

駆けつけた隣人の証言によれば、ドアを開けた瞬間に部屋の半分が粘着質の泡で埋め尽くされており、田村さんはその中で「これが究極のふわふわだ!」と叫びながら、顔中を泡だらけにして立ち尽くしていたといいます。消防隊が到着した頃には、もはや何が家具で何が家電なのか判別できない状態でした。

現在、田村さんは近隣住民への謝罪と、部屋の特殊清掃に追われる日々を送っています。しかし、反省の色は見られません。「今回の失敗は、容器の密閉度が足りなかっただけ。次は圧力鍋の中で回せば、真空状態での納豆攪拌が可能になるはずです」と、すでに次の計画を練っているようです。

結局、あの日作られた『究極の納豆』の味はどうだったのでしょうか。田村さんは苦笑しながらこう答えました。「実は慌てすぎて一口も食べていないんです。ただ、その後に掃除を手伝ってくれた業者さんが、壁についた泡を少し舐めて『これ、めちゃくちゃ美味いですね』と言ったのが、唯一の救いでした。」