石橋氏はパン屋の厨房で15年間、来る日も来る日も白い部分を切り落とし続け、心の中でこう思い続けていたといいます。「なぜ、世界はこのカリカリで香ばしい黄金色の部分を捨てて、柔らかなだけの無個性を好むのか」。この疑問が、彼をパン職人から「耳の錬金術師」へと変貌させました。

今回のプロジェクトのために、石橋氏は特注の「耳接着マシーン」を自作しました。これは、パンの耳同士を焼きたての小麦グルテンの粘り気のみで結合させるという、非常に職人芸を要する装置です。100メートル分を繋ぎ合わせるために要した耳の数は、なんとパン換算にして約1万2千斤分。近隣の製パン工場から供給される耳が追いつかず、一時は「耳不足」による操業停止の危機にまで陥りました。

「白い部分ですか? もちろん全て友人の牧場に寄付しました。牛たちも最初は困惑していましたが、今ではすっかり白い部分専用の牛になってしまいましたよ」と石橋氏は語ります。彼の目には、完成した100メートルの耳の列を前に、かつてない達成感が宿っていました。

完成品を披露したイベント会場では、来場者がその長すぎる耳を「パンの鉄道」のように線路沿いに歩くというシュールな光景が広がりました。一部の熱狂的なファンからは、「この耳を首に巻いて冬を越したい」「耳の香りに包まれて眠るのが夢だった」といった、パンの耳愛に溢れたコメントが寄せられています。

しかし、最大の誤算は、あまりの香ばしさに近所の野良猫たちが総出で押し寄せたことでした。全長100メートルの「パンの道」は、開始からわずか10分で猫たちのパレードの舞台となり、またたく間に食い尽くされてしまったのです。

石橋氏は現在、さらに強固な耳を作るために、耳をカラメルでコーティングして鋼鉄並みの強度を持たせる「武装パン耳計画」を進行中です。彼の挑戦はまだ始まったばかりであり、次回は「耳だけで作る高層マンション」への着工を予定しているとのことです。