羽田野さんが3年の歳月と貯金の大部分を投じて完成させたこの装置は、胸元に装着してスイッチを入れるだけで、秒速で完璧なウィンザーノットを形成するという夢のガジェットだった。発表会では「これで人類は朝の貴重な時間を手に入れる」と力説し、会場からは期待の拍手が送られた。
しかし、実際に試作品を装着したモニターたちから、驚愕の報告が相次いだ。装置は確かにネクタイを結ぶのだが、その締め付けトルクの設定を間違えたのか、一度結び始めると「もっときつく」「もっと完璧に」というプログラムが暴走し、着用者の首を締め上げ始めるというのだ。
「結び目が完璧な三角形になるまで、首が引きずり込まれるんです」と語るモニターの男性は、装着わずか10秒で顔色が紫色に変色し、必死で装置のストップボタンを探したという。幸いにもボタンはネクタイの裏側に隠れており、緊急停止するには自分で自分の首をさらに絞める必要があった。
この現象について羽田野さんは「美しさへの執着が少し強すぎたかもしれない」と弁明している。さらに悪いことに、この装置には「解く」機能が搭載されておらず、一度結ぶと、ハサミでネクタイを切り裂く以外に脱出する方法がないことが判明した。
現在、この装置は「高級ネクタイを犠牲にしてでも朝の3秒を短縮したいストイックな決死隊」の間で、密かなブームになりつつある。羽田野さんは次期モデルとして「装着すると同時に自動的に気絶する機能」を検討しており、もはやネクタイを締めること自体が命懸けの儀式と化している。
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