都内在住の乾杯研究家、羽田野健二さん(42)がこのほど発表したのは、通常のガラス製品とは一線を画す特注のクリスタル製ジョッキです。羽田野さんは過去15年にわたり、居酒屋、家庭、高級レストランで合計5万回以上の乾杯をサンプリングし、人類が最も「心地よい」と感じる周波数を追い求めてきました。
完成したジョッキは、表面に複雑な幾何学模様が施されており、液体を入れた瞬間に微細な振動を発生させる特殊なコーティングが施されています。羽田野さんによると「このグラス同士を接触させた瞬間、宇宙の誕生を彷彿とさせる荘厳な倍音が響き渡り、周囲の時間が止まる」とのことです。
先日のデモンストレーションでは、羽田野さんが居酒屋のカウンターで静かにそのジョッキを隣の客と合わせたところ、あまりの音の良さに店内の客全員が拍手を送り、店長までもが感動のあまりジョッキで味噌汁を飲み始めるという異常事態が発生しました。
しかし、このジョッキには重大な弱点も発覚しています。素材が繊細すぎて、炭酸飲料を入れると泡の弾ける音に共鳴し、グラスが自発的にダンスを始めるというのです。羽田野さんは現在、このダンスを制御するために、グラスに小さな足を取り付ける改造工事に着手しています。
「乾杯は、魂と魂が火花を散らす儀式。この音を聞けば、誰もが争いを忘れてハイボールを注文したくなるはずだ」と熱弁する羽田野さん。目下の目標は、この音を国連の会議で鳴らし、世界平和を実現することだと意気込んでいます。
最後に、記者がそのジョッキで実際に乾杯を試みたところ、あまりに神々しい音が鳴り響いたため、その場にいた全員がなぜか直立不動で「ありがとうございました」と謝罪し始めました。もはや乾杯なのか謝罪会見なのか判別がつかないまま、羽田野さんは満足げにジョッキを片手に夕日に向かって歩き出しました。
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