近所に住む発明家の羽田野健太さん(42)は、毎朝のトーストにバターを塗る行為が「人類にとって最大の時間の無駄である」と痛感し、半年かけてこの装置を製作した。このマシンは、食パンをセットすると瞬時に超高速回転するバターカッターが作動し、パンの表面をなめらかにコーティングするというものだ。

特筆すべきは、単にバターを塗るだけではないという点だ。羽田野さんはこの装置に「芸術的昇華モード」を搭載した。これはパンの焼き加減に合わせて、バターでピカソ風の抽象画や、あるいは繊細なレース模様を描き出すという、パンの朝食を美術館に変える機能である。

しかし、記者発表会での実演では思わぬトラブルが発生した。マシンの出力設定が最大になっていたため、猛スピードで回転したバターが、周囲にいた記者のネクタイや髪の毛を完璧な黄金色にコーティングしてしまったのである。会場は一瞬にしてバターの芳醇な香りに包まれたが、記者たちは「朝の香りがする」と困惑するしかなかった。

羽田野さんはこの事態を「想定内」と笑い飛ばす。「これはパンが主役であるという概念を覆す発明だ。周囲がバターを纏うことで、人間もまた朝食の一部になれる。つまり、食卓全体の調和を生む装置なのだ」と、バターまみれになりながら力説した。

現在、この装置には「バターの射出速度が速すぎてパンが壁まで飛んでいく」という微細な不具合報告が相次いでいるが、羽田野さんは意に介さない。「それはパンが自由に羽ばたきたいと願った結果だ」と語る彼のもとには、なぜか近所のカラスたちが毎日行列を作って並んでいるという。

結局、この装置を使って朝食を食べるためには、あらかじめ防護服を着用し、パンを壁に固定しておく必要があることが判明した。それでも羽田野さんは、来月にはさらに進化させた『ジャム・スナイパー』の発表を予定しており、朝の食卓が戦場と化す日は近そうだ。