羽田野さんが開発した『バタ・スプレッダー・マークIV』は、時速100キロで回転するステンレス製のアームを備え、どんな固いバターでも極薄かつ均一にパンへ塗布できるという夢のマシンでした。開発期間は3年、総工費は羽田野さんの妻がこっそり貯めていた家族旅行資金の全額にあたる約80万円が投じられています。
実験当日、羽田野さんは近所のスーパーで最も安価な食パンを購入し、機械の中央部にセットしました。緊張の面持ちでスタートボタンを押すと、機械は耳をつんざくような起動音とともに唸りを上げました。しかし、最初の動作である「バターの加熱」において、想定以上の火力が供給されてしまったのです。
溶解したバターは、もはや液体というよりも溶岩に近い熱量で、機械内部のノズルから勢いよく射出されました。マシンの制御プログラムが「パンの表面積を完璧に覆う」という指令を過剰に解釈した結果、ノズルはパンだけでなく周囲のキッチンカウンター、さらには壁一面に至るまで、バターをコーティングし始めました。
「美しい、あまりにも美しい油膜だ」。羽田野さんは当初、その光景を芸術だと称賛していましたが、勢いの止まらない機械は、そのまま食パンそのものを高速回転で壁に叩きつけました。食パンは物理的な衝撃と熱によって完全に粉砕され、キッチンは一夜にして広大なバターの更地と化しました。
近隣住民からは「何かが爆発したような音がしたが、なぜか台所から素晴らしいクロワッサンの香りが漂ってきた」との通報があり、駆けつけた消防隊員もあまりの脂ぎった室内の惨状に言葉を失ったといいます。
現在、羽田野さんは妻から無期限の外出禁止令を受けており、自宅のキッチンには今もなお、厚さ3ミリのバターの層が固まっています。なお、羽田野さんはこの件について「バターの壁に囲まれて過ごす日々は、ある種のリゾートホテルに住んでいるような錯覚に陥る」と、反省の色は見せていない様子です。
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