羽田野氏がこのパンを思いついたきっかけは、「トーストは焼くと硬くなるが、最初から限界まで硬ければ焼く必要すらなくなるのではないか」という極めて哲学的な問いだった。材料には通常の小麦粉に加え、独自の配合による乾燥コンクリート粉末に近い粘土質素材と、超高密度圧縮製法が採用されている。
完成した食パンは、見た目こそ愛らしい山型食パンだが、その硬度はモース硬度で4を記録する。地元の食パン愛好家を集めた試食会では、電動のこぎりでスライスしようとしたところ、刃の方が先に欠けてしまうという前代未聞の事態が発生した。
「最初はフォークで刺そうとしたのですが、フォークが逆の字に曲がりました。次に金槌で叩きましたが、パンには一切の痕跡すら残りませんでした」と語る羽田野氏は、自信満々にそのパンを差し出す。彼にとってパンは食べるものではなく、人類の顎への挑戦状なのである。
このパンを食すための推奨環境として、羽田野氏は『工業用ドリルでの粉砕』と『一週間煮込んだシチューへの投入』を挙げる。しかし、実際に煮込んだ参加者は、「パンがシチューを吸い込むのではなく、シチューの水分がパンに奪われて逆にスープが干上がった」と証言した。
開発発表の場において、羽田野氏は自らこのパンを強引に齧るパフォーマンスを披露。バキッという轟音が会場に響き渡り、羽田野氏の口からは「……あ、これ、いける」という強がりとともに、奥歯が一本、何処かへ飛び去っていった。
現在は「食べたことによる満足感よりも、硬さに勝ったという達成感」だけを売りに、パン屋ではなく金物店での販売を検討中だという。なお、羽田野氏は現在、歯科医院に通い詰めながら「次の目標は、ダイヤモンドを練り込んだ『宇宙食パン』です」と、治療中の麻酔が切れる直前に笑顔で語った。
コメント
まだコメントはありません。