田所氏の長年の夢は、納豆のネバネバ成分である『納豆キナーゼ』を最大限に活性化させることであった。箸で混ぜるという古典的な手法に限界を感じた同氏は、家庭用ミキサーを改造し、さらには洗濯機の脱水槽を組み合わせた巨大な遠心分離システムを構築。毎分5000回転という、業務用の加工機械も顔負けの速度でパック納豆を回転させる実験を開始した。

実験開始から3時間、ガレージには聞いたことのないような『ブォォォン』という高周波のうなり音が響き渡った。隣人の証言によれば、窓ガラスが微振動し、近所の猫が一斉に逃げ出すほどの異様な光景だったという。田所氏はゴーグルと防護服に身を包み、汗だくになりながら『これはただの納豆ではない、エネルギーの結晶だ』と絶叫していた。

ついに遠心分離が終了し、装置が停止した直後、容器の中には茶色い粘土状の物質が残されていた。それはもはや納豆という形状をとどめておらず、鏡面のように光り輝く『未知のペースト』へと変貌を遂げていたのだ。田所氏はこれを『納豆の魂』と命名。顕微鏡で観察したところ、そのペーストからはほのかに光る粒子が放たれており、室内の湿度を劇的に上昇させるという謎の現象も確認された。

意気揚々と試食に挑んだ田所氏だったが、口に入れた瞬間に衝撃の事実が判明した。あまりの攪拌速度によりタンパク質が完全に破壊され、味は『無』、香りは『かつてのプラスチック製品』という、納豆の要素をすべて失った無味無臭の物質が出来上がっていたのである。

田所氏は現在、この『納豆の魂』を何かに活用できないかと模索中だ。これまでのところ、その強力な粘着力を利用して剥がれかけた壁紙を補修するDIY用途にしか役立っていないが、本人は『納豆は料理の枠を超えた』と満足げに語っている。次は冷蔵庫ごと回転させて、味噌汁の深淵に触れるつもりだという。