会社員の波多野健介さん(42)は、10年前のある日、ふと思いついた。「この消しゴムのカス、もしかして再利用できるのではないか」。以来、彼は事務作業のたびに出るカスを捨てず、毎日せっせと小瓶に詰め続けた。同僚からは「ゴミを溜める変な人」と影で噂されていたが、波多野さんはただ黙々と、情熱をカスに注ぎ込んだのである。
集まったカスの総量はなんと約85キログラム。段ボール箱にして15個分に達した。波多野さんはこれを特殊な高圧プレス機にかけることで、驚異的な硬度を誇る「消しカスレンガ」を数百個生成することに成功。建築基準法を大幅に無視した独創的な建築計画を練り上げたのだ。
建築場所は、祖父から譲り受けた裏庭の片隅。週末を利用し、彼が手作業で積み上げた壁は、近くで見ると無数の文字や図形がかすかに消し込まれた、なんとも哀愁漂うモダンアートのような風合いだ。「消しゴムのカスには、その人が間違えた歴史が刻まれています。つまり、これは私の挫折の集合体なんです」と波多野さんは誇らしげに語る。
しかし、この別荘には致命的な弱点があった。先日、完成記念パーティーとして家族を招き入れた際、室内が湿度70%を超えた途端、壁全体から独特のゴム臭が漂い始めたのだ。さらには、壁にもたれかかった友人が「壁が微妙に弾力があって跳ね返してくる」と困惑するなど、住環境としては極めてスリリングな仕上がりとなっている。
そんな中、一番の悲劇は昨夜発生した。近所の子供が「巨大な消しゴムがある!」と勘違いし、家の外壁を思いっきりこすって宿題の字を消そうとしたのだ。波多野さんが慌てて駆けつけた時には、家のリビングルーム部分がごっそりと「消滅」しており、現在は壁の修復どころか、消えてしまった部屋の再構築を検討中だという。
それでも波多野さんの情熱は衰えない。「次はもっと硬い練り消しゴムを混ぜて、耐水性のある別荘を目指します」と、今日も彼はデスクで黙々と、新たな建材(消しカス)を生み出し続けている。
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