都内在住の羽田野夢見さんは、幼少期から食パンの白い部分に対して強烈な違和感を抱いてきました。「あのふわふわした食感は、パンの耳という宝石を運ぶための梱包材にすぎない」と語る彼は、過去二十年にわたり、自宅で食パンの白い部分だけを丁寧に取り除き、耳同士を接着剤代わりの小麦粉ペーストで繋ぎ合わせる研究を続けてきました。
このたび開店した『ミミ・オンリー』では、メニューは一つだけ。特注の巨大な釜で焼かれた、全長五十センチにも及ぶ『全周が耳の食パン』です。製造過程では、まず通常の食パンを焼き、その周囲を切り出し、さらにその切り出した断面を焼くという、非常に非効率かつ情熱的な工程が繰り返されています。
開店初日から行列を作った客たちの反応は様々です。「一口食べた瞬間、顎が壊れるかと思った」「香ばしさの暴力だ」といった称賛の声が飛び交う一方、近隣の住民からは「毎日パンの耳が焼ける匂いしかしなくて、脳が耳の形になりそうだ」という困惑の声も上がっているようです。
羽田野さんの次なる目標は、この耳の密度をさらに高めた『耳の塊による要塞』を建設することだといいます。すでに耳専用の接着技術は特許出願中であり、彼にとって白い部分はもはや存在しないも同然なのです。
しかし、閉店間際に店を訪れた記者が「ところで、切り落とされた白い部分はどこへ行くのですか?」と尋ねたところ、羽田野さんは一瞬困惑した顔を見せました。彼は申し訳なさそうに店の裏口を指差し、「ああ、あれですか。近所の公園で、鳩たちがものすごく贅沢な生活を送っていますよ」と答えました。
コメント
まだコメントはありません。