都内在住の会社員、田所満太郎氏(42)は、毎朝の納豆をかき混ぜる時間が苦痛であった。「ただ混ぜるだけでは人生の無駄である」と確信した彼は、ある日、納豆の粘り気の中に宇宙の法則が隠されていると直感。以来、彼は納豆の糸を数キロメートルにわたって空中へ張り巡らせるという、前代未聞の研究に着手した。

研究開始から3年、田所氏のアパートは、天井から床まで無数の粘着質な糸で覆われる異様な空間となった。彼は最新の測定器を導入し、納豆の糸が空気中の静電気を拾って微弱な信号を発していることを確認。彼はこれを「納豆・ブロードバンド」と命名し、世界中の研究者に向けて学会発表を行う準備を進めていたという。

事態が急変したのは、先週火曜日の午前7時。田所氏が最高級の大豆を使用し、3万回かき混ぜた納豆を使って実験を行った際のことだった。糸は部屋の窓を突き破り、空高く昇天。そのまま成層圏へと到達したかのように見えた瞬間、田所氏の目の前にある古いトースターが突然、なぜか演歌を歌い始めたのである。

「これこそが宇宙からの回答だ!」と歓喜した田所氏。彼は糸を通じて宇宙人にメッセージを送ろうと試みた。「夕飯はカレーライスにしてもいいか?」という彼からの問いかけに対し、トースターから聞こえてきたのは「玉ねぎは炒めてから入れろ」という明確かつ家庭的なアドバイスであった。

しかし、この壮大な交信実験は突然の幕切れを迎えた。部屋に現れた管理人が、天井から垂れ下がる無数の納豆の糸に絡まり、激しく転倒したのである。管理人は「いい加減にしろ、朝から部屋が臭すぎて住民全員が気絶寸前だ」と激怒。田所氏の宇宙通信プロジェクトは、強制退去という形で銀河の彼方へ霧散することとなった。

現在の田所氏は、近所の公園で地味に朝食をとっているという。彼の手元には今も納豆パックがあるが、以前のような熱狂的なかき混ぜは見られない。「今はただ、普通に食べたい。たまにトースターが『隠し味にはコーヒーを入れろ』と囁いてくるのが煩わしいんだ」と、彼は静かに語った。