目玉焼きの焼き加減に人生を捧げてきた羽田野健太さん(42)は、ある日突然、強烈な疑問に襲われた。「もし、無重力状態で卵を焼いたら、黄身は真ん中に浮いて、完璧な球体状の半熟ができるのではないか?」という仮説である。彼はこの壮大な真理を証明するため、私財を投げ打ち、特注の耐熱フッ素樹脂加工された宇宙食調理ユニットの開発に着手した。

研究は当初、台所で始まった。しかし、羽田野さんは「地球の重力というノイズが入るからダメだ」と、わざわざ近所のトランポリン施設を借り切り、宙を舞いながらフライパンを振るという過酷なトレーニングを積んだ。その姿は、近隣住民から「高飛び込みのオリンピック選手が、フライパンを持って練習している」と噂になり、なぜか町内の運動会に招待される事態にまで発展した。

ついに羽田野さんは、宇宙関連のスタートアップ企業を説得し、高度100キロメートルへの弾道飛行に成功した。彼の目的はただ一つ、無重力空間で卵を割り、究極の「球体両面半熟」を完成させること。ロケットが最高到達点に達した瞬間、羽田野さんは震える手で卵を割った。カプセル内に漂う卵は、重力から解放され、宇宙の闇を背景に美しく黄金色の球体へと変貌した。

しかし、事件はここで起きた。卵を見つめすぎていた羽田野さんが、あまりの美しさに感極まり、無意識のうちに一口パクッと食べてしまったのだ。ロケットが帰還した際、彼の手元に残っていたのは、ただの「宇宙で空っぽになったフライパン」だけだった。

羽田野さんは現在、地上で「宇宙の味は、結局のところ、地球のコンロで焼いた目玉焼きとあまり変わらなかった」と語り、今後は「究極のトースト」を求めてマントル層への潜入計画を画策しているという。