羽田野さんは3年前から「納豆の粘りは空気との融合の過程である」という独自の仮説を立て、毎日2時間の攪拌作業を日課としていた。彼が使用していたのは、航空機のタービン技術を応用して改造された特注の電動攪拌機で、最高回転数は毎分3000回転に達するという。

事件当日、羽田野さんは「今日は大豆の分子構造を空気中に霧散させる」と意気込み、設定を最大出力の『銀河回転モード』にセットした。目撃者(近所の飼い猫)によると、キッチンから凄まじい大豆の香りと共に、青白い閃光が放たれたという。

現場に駆けつけた消防隊が目にしたのは、整然と並べられた空の納豆パックと、壁一面に美しく均一に塗りたくられた「極限まで混ざった納豆の痕跡」だけであった。羽田野さんの姿はどこにもなく、ただ換気扇からは甘美な発酵食品の香りが力強く漂っていた。

専門家は「彼が目指していたのは納豆の攪拌の果てにある『完全なる一体化』だったのだろう。物理法則を超えて、彼自身が納豆と分子レベルで混ざり合ってしまった可能性は否定できない」と語る。

現在、警察と納豆業界の有志は周辺の捜索を続けているが、羽田野さんの親族からは「あいつなら、きっと今ごろ空の上で美味しいタレを探しているはずだ」と、どこか晴れやかなコメントが寄せられている。なお、現場に残されていた最後の一パックは、あまりの完成度の高さに、一口食べた警察官がその場で気を失うほどの絶品だったという。