都内在住の会社員、大山茂雄さん(42)は、以前から「冷めた食パンは人生の損失」と公言するほどのパン愛好家である。彼は、どんなに急いでいる朝でも焼き立ての香ばしさを犠牲にすることを拒み、ついに通勤電車の座席下のコンセント(掃除用電源)に自前の高級トースターを接続するという禁断の手段を思いついた。

事件は朝のラッシュ時に発生した。大山さんは、誰にも気づかれないようトースターをビジネスバッグに擬態させるための特製ケースを自作。電車が発車するやいなや、素早くコンセントへプラグを差し込み、山型食パンを投入した。車内には香ばしい小麦の香りが漂い始めたが、それは通勤客にとっては「異様な朝」の始まりを告げる合図に過ぎなかった。

「焼ける音と香りが最高にエモーショナルだった」と語る大山さんだったが、その直後、トースターの出力に耐えきれず車両全体の照明が激しく明滅し、車内アナウンスで『ただいま異常な電力消費を検知しました』と警告が流れる事態となった。周囲の乗客は、まさかサラリーマンが車内でモーニングセットを準備しているとは夢にも思わず、車両火災を疑ってパニックに陥った。

駆けつけた車掌が目にしたのは、焦げ茶色に色づいた最高の一枚と、満足げな表情でバターナイフを構える大山さんの姿だった。大山さんは『あと1分で最高のきつね色になるはずだったのに』と、強制降車の際もパンの焼き加減を最後まで気にしていたという。

鉄道会社は再発防止策として、今後コンセントを使用する際は事前申請が必要であると異例の告知を行ったが、大山さんは懲りずに『次はモバイルバッテリーで駆動する超小型トースターを開発する』と、新たな発明への闘志を燃やしている。

結果として、大山さんが持ち込んだ食パンは、車内の混乱によりバターを塗る暇もなく冷めきってしまい、結局いつものパサパサした朝食になったことが判明した。