「醤油さしを傾ける」という極めて原始的な行為に人生を捧げる大山健二さん(42)は、過去10年間で3000種類以上の醤油さしを破壊してきた。彼が目指したのは、地球上の重力を無視し、一滴の液だれも許さない完璧な調味料噴射システムである。
完成した試作機『ソイ・ストリーム・ゼロ』は、全長45センチのステンレス製ボディに、航空機グレードの精密圧力弁を搭載している。ボタンを押すと、醤油は微粒子化されたミストとなって食材を包み込む。開発にあたって、大山さんはなんとミサイルの発射シークエンスを研究し、醤油の飛散角を数学的に算出するまで没頭したという。
実演会では、大山さんはフルフェイスのヘルメットを着用し、まるで爆発物処理班のような厳格な動作で装置を操作した。ゲストの刺身に向けて放たれた醤油ミストは、まさに芸術的な霧となり、完璧な均一さで魚の表面を覆い尽くした。会場はしばし静まり返り、そのあまりの過剰なハイテク感に、誰もが「ただ、刺身に醤油をかけたいだけなのに」という戸惑いを隠せなかった。
しかし、この装置には一つだけ致命的な欠点があった。醤油を充填するための専用タンクがあまりにも巨大で、家庭用の冷蔵庫には入らないのだ。しかも、システム起動時には「醤油充填完了」という合成音声が爆音で響き渡るため、静かな朝の食卓で使うには度胸が必要となる。
「これこそが食卓の革命だ」と胸を張る大山さんだが、現在この装置の主な用途は、隣家の庭にいる猫を醤油の匂いで驚かせないように追い払うという、当初の目的とは全く異なる方向に落ち着いてしまった。本人は「まあ、液だれはしないから成功だ」と満足げだが、肝心の醤油をかけた刺身は、ミストの細かさゆえに乾燥して味が薄いと評判である。
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