「豆と空気の融合比率には、黄金比が存在するはずなんです」。そう語るのは、納豆研究家の羽鳥健太郎さん(58歳)。彼は30年間、毎日100パックの納豆を食し、最適なかき混ぜ方を模索し続けてきた男だ。

事件当日、羽鳥さんは究極の粘り気を追い求め、高出力工業用ミキサーを改造した『超高速かき混ぜ機』を開発した。彼の計算によれば、秒間1万回転という速度で納豆を攪拌(かくはん)すれば、大豆の分子が限界まで活性化し、この世のものとは思えない美味へと変貌するという。

しかし、スイッチを入れた瞬間、異変は起きた。納豆の糸が音速を超え、螺旋状の光となって部屋を満たしたのだ。その光は重力を無視して回転し始め、羽鳥さんのキッチンは突如として巨大な渦に飲み込まれた。

現場に駆けつけた近隣住民の証言によれば、「キッチンのあった場所から、とてつもなく芳醇な発酵食品の香りが漂ってきたかと思うと、次の瞬間にはただの空き地になっていた」という。警察も困惑するしかない事態である。

後日、奇跡的に帰還した羽鳥さんは、唯一無二の納豆を一口食べて「……まあ、普通に美味しいですね」と呟いた。彼の手には、あまりの回転数により極限まで磨き上げられ、もはやダイヤモンド並みの硬度を持った『究極の豆』が一粒だけ残されていた。