羽田野氏はこれまで15年にわたり、朝食の目玉焼きの白身のカリカリ感と黄身のトロトロ感を完璧に調和させる研究を続けてきた。しかし、地球上の重力ではどうしても黄身が中心からわずかにズレることに不満を抱いていたという。「重力が邪魔をしている。あの完璧な円形を維持したまま熱を通すには、宇宙の無重力環境しかない」と彼は断言する。

プロジェクト名は『フライパン・ギャラクティック・イグ』。彼は既に特注の耐熱磁力フライパンを開発し、さらにそのフライパンを運ぶための超小型無人ロケットの製作に着手している。羽田野氏の自宅裏庭には既に発射台らしきものが築かれており、近隣住民からは「また何かすごい音がしそうだ」と困惑交じりの期待が寄せられている。

実験当日は、最高級の卵を3個用意し、ロケットに搭載して高度100キロメートルを目指す。宇宙空間でロケットが回転することで擬似重力を生み出し、フライパンの中心に黄身を固定。その状態で特殊加熱装置を作動させ、宇宙初の『完全なる目玉焼き』を焼き上げる計画だ。

羽田野氏によると、宇宙で焼いた卵の黄身は、地球のそれとは比較にならないほどの芳醇な香りを放つはずだと主張する。「宇宙の真空に近い環境で加熱されたタンパク質は、分子レベルで再構築され、食べた瞬間に銀河の歴史を感じるはずです。たぶん」と熱く語った。

しかし、打ち上げまであと1週間に迫った現在、致命的な問題が発覚した。ロケットのペイロード(積載量)の都合上、フライパンを飛ばすことはできたが、肝心の『食べるためのフォークとナイフ』を積み忘れていたのだ。羽田野氏は現在、慌てて無人機に自動食事補助アームを取り付ける急ピッチの改修を行っている。

打ち上げ成功の暁には、世界初の『宇宙目玉焼き試食会』を開催する予定だが、当の羽田野氏は「正直、卵が宇宙に到達した時点で満足している」と、目的と手段が壮大にすり替わっていることをうっかり漏らした。もし成功すれば、人類の食文化の歴史が覆ると同時に、世界で最もコストのかかる朝食としてギネス記録に載ることになるだろう。