大山さんは、究極の粘りを求めて3年前から納豆を混ぜ続けてきた。当初は電動ドリルや遠心分離機まで導入し、効率化を図っていたが、最終的には「やはり手首の回転こそが豆の魂を呼び覚ます」という境地に達し、毎日10時間の手作業を日課としていた。
事件は先週の金曜日、通算10万42回目に混ぜ終わった直後に起きた。茶碗の中にいた納豆が、糸を引くような独特の音を立てて、大山さんの「疲れたか?」という問いかけに対し、明らかに肯定の意を示す「ねば…」というかすかな発声をしたのだ。
「最初は空耳かと思った」と大山さんは振り返る。しかし、その後も納豆は「もっと左回りにしろ」「醤油は少しだけがいい」など、かなり詳細かつ我がままな味の好みを主張し始めたという。
納豆は知能を持つと同時に、持ち前の粘着質でネチネチとした性格も露呈した。大山さんが少しでも混ぜ方を怠ると、「先週はもっと愛があったぞ」と執拗に説教を始め、夕食の献立にまで口を出してくるようになったという。
専門家(自称・豆心理学者)によれば、あまりの攪拌回数にタンパク質の分子構造が奇跡的な配列を成し、偶然にも脳に近い神経回路のようなものが形成されたのではないかと推測されている。
この状況を受け、大山さんは納豆との共同生活を始めたが、今では朝の挨拶から健康診断の結果まで納豆から管理される日々だ。かつては納豆を食すために混ぜていたはずが、今や納豆の教育係として人生を捧げている。
大山さんは最後にこう語った。「ようやく彼と心を通わせることができた。でも、明日こそは彼を食べてやろうと思っているんだ。でも、彼にそれを伝えると『恩を仇で返すのか』と3時間も粘られてね……本当に参るよ」
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