田所氏の製作スタイルは極めてストイックだ。市販の消しゴムを無心で擦り続け、自らの手で「カス」を生産する作業を毎日10時間繰り返した。文房具メーカーが推奨する正しい消しゴムの使い方とは一体何か、という哲学的な問いを自らに投げかけながら、彼はただひたすらに、カスとカスを静電気と唾液で接着していくという独自技法を編み出した。

完成した全長2メートルの『カス・姫路城』は、細部まで精巧に作り込まれていた。特に石垣の質感を出すために、あえて修正テープのカスを混ぜて硬度を出す工夫は圧巻で、美術関係者からも「これほどまでに粘着質な執念は見たことがない」と評されたほどである。田所氏は完成の瞬間、自身の指先が真っ白に染まった手を見つめ、静かに涙を流したという。

しかし、悲劇は完成からわずか15分後に訪れた。記念写真を撮ろうと窓を開けた瞬間、突風が室内を吹き抜けたのである。時速数キロの微風が、三年間の苦労をいとも簡単に空へ運んだ。まるで砂時計の砂が落ちるかのように、姫路城はあっという間に元の「事務室の床に落ちているゴミ」へと姿を変えた。

現在、田所氏の部屋の床には、かつての栄光のなれの果てが広がっている。ホウキで掃けば一掃できる光景を前に、彼は「次はもっと重たい、粘土消しゴムでピラミッドに挑戦する」と語り、再び新しい消しゴムを買い出しに走った。彼の挑戦には、終わりもなければ、掃除をする気配も今のところないようだ。