都内在住の羽田野健一さん(42)は、毎朝の食卓に並ぶ納豆に対し、長年ある不満を抱いていた。「もっと空気を抱き込み、雲のような食感にしたい」。そんな純粋かつ異常な情熱から、羽田野さんは専用の特殊形状スプーンを自作し、納豆の攪拌(かくはん)を日課としていた。

事態が急変したのは、先週火曜日のことだ。いつものように右回転と左回転を交互に織り交ぜる「羽田野式・無重力攪拌法」を8万回繰り返した瞬間、ボウルの中で高速回転していた納豆の糸が、まるで竜巻のように一点に集中した。その直後、羽田野さんが手にしていたステンレス製のスプーンが、突如として強力な磁気を帯び始めたのだ。

近所の金属加工会社に依頼して精密検査を行ったところ、スプーンは永久磁石となっており、周囲のフォークやナイフを次々と吸い寄せ、キッチンが一時的に『磁場のアトラクション状態』になるという異常事態が発生した。物理学の専門家も「納豆のタンパク質が高速摩擦で超伝導に近い状態になったのでは」と、苦笑しながら首を傾げるしかない未曾有の事態である。

「まさか納豆で永久磁石が作れるとは」と羽田野さんは語るが、本人の目的はあくまで「究極の粘り」を出すことだったため、磁石化は全くの想定外であった。現在、羽田野さんのキッチンでは、冷蔵庫のドアにスプーンが勝手に張り付き、時折、残った納豆の糸が静電気で空中に浮遊するという、幻想的かつ不便な光景が広がっている。

羽田野さんは現在、次に9万回かき混ぜたら「納豆が発光するのではないか」という新たな仮説を立て、さらなる挑戦に向けて納豆パックを買い溜めしている。なお、奥様からは「磁石になったスプーンのせいで、冷蔵庫の卵ケースが開かなくなった。いい加減にしてほしい」と、物理現象よりも深刻な家庭内力学の危機を宣告されている。