会社員の古賀茂雄さん(42)は、以前から「納豆のポテンシャルを最大まで引き出したい」という純粋かつ無謀な情熱を抱いていました。古賀さんは自宅のキッチンに専用の高速回転ミキサーを設置し、独自の計算に基づく理論で、ただひたすらに大豆の発酵食品と向き合う日々を送りました。

実験開始から1ヶ月で、納豆はまるでホイップクリームのように膨らみ、糸はもはや鋼鉄のような硬度を帯びるようになりました。近隣住民からは「壁の向こうからずっと『シュルシュル』という不気味な音がする」という苦情も寄せられましたが、古賀さんは耳栓をして孤独な修行を継続したといいます。

事態が急変したのは、混ぜ回数が8万回を超えた昨日の深夜です。古賀さんがミキサーのスイッチをオンにした瞬間、丼の中の納豆が発光し始めました。それはもはや粘り気のある食品という次元を超え、質量を持った光の粒子のような振る舞いを見せたのです。

「見たこともない宇宙の真理がそこにはあった」と古賀さんは当時の状況を興奮気味に語ります。器の中にはもはや豆の形をしたものは存在せず、ただそこには『納豆の純粋な意思』としか呼べない、揺らめくエネルギーの渦が浮かんでいたそうです。

次の瞬間、そのエネルギーは小さく弾け、古賀さんのキッチンから納豆は完全に消滅しました。後に残されたのは、真っ白に輝く空っぽの丼と、部屋中に漂う強烈な発酵臭だけでした。

専門家によると、過剰な攪拌(かくはん)により納豆が三次元の限界を超え、別の次元へと蒸発してしまったのではないかと推測されています。現在、古賀さんは「次は豆腐を凝縮してブラックホールを作りたい」と意気込んでおり、周辺からは「頼むから普通に食ってくれ」という切実な声が上がっています。