石橋氏はパンの耳だけを食べ続けた幼少期の記憶から、『なぜ我々は、中心部のふわふわした無味乾燥な領域を許容しているのか』という哲学的な疑問に突き動かされた。彼は5年を費やし、中心部の白い生地が一切発生しない特殊な焼き型を独自に鋳造した。

完成した製品は、一見すると巨大な揚げ油のカス、あるいはただの硬い輪っかのように見える。試食会に招かれた専門家たちは、その形状を見て『これはパンというより、重厚な建築資材に近い』と困惑の声を上げた。

しかし、石橋氏は至って真剣だ。『これはパンではない。パンの進化の究極形であり、食感の暴力である』と豪語する。彼はあえて一切の水分を飛ばし、歯が立たないほどの硬さを追求したという。

実際に噛み砕こうとした記者は、一口目で奥歯に異変を感じ、二口目で顎がロックするという事態に見舞われた。しかし、確かに口内に広がるのは圧倒的な香ばしさだけである。それはもはや食事というより、修行に近い体験だ。

現在、この『ゼロ・クラム・ブレッド』は、パン屋の店頭には並んでおらず、主に『かじるためのハードトレーニング器具』として、地元のボクシングジムで導入が検討されているという。

石橋氏は次の目標として、『バターを塗る隙間すら与えない、完全に球体状の耳』の開発に着手している。彼は『最終的には、噛むことすら拒否するパンを作りたい』と語り、今日も硬い金属のような塊をオーブンに放り込んでいる。