羽田野氏が納豆を混ぜることを始めたのは、今から3年前の朝食時だった。「なんとなく50回混ぜたら、豆が輝いて見えたんです」と彼は語る。そこから彼の生活は一変。混ぜることの効率と美学を追求し、特殊な回転装置と独自の粘度解析ソフトを自作するまでに至った。
特筆すべきは、その情熱の加速ぶりだ。最初の1ヶ月で1万回を突破し、その後は1日あたり12時間を納豆かき混ぜ作業に費やした。彼は「混ぜる動作は瞑想に近い」と主張し、もはや食事のために納豆を混ぜるのではなく、混ぜるために納豆を補充するという本末転倒なルーチンを確立した。
近所の住民によると、羽田野氏の自宅からは、24時間絶え間なく「シャカシャカシャカシャカ」という規則的かつ激しい音が漏れ聞こえていたという。しかし、その音は次第に変化した。最近では、そのリズムがあまりに高速すぎて、家の周囲に微弱な電磁波が発生していると噂されていた。
そしてついに昨日、羽田野氏は10万回という大台を達成した。その瞬間、彼が混ぜていた器から強烈な白い光が放たれ、周囲の重力定数が一時的に変動したという。目撃者によれば、羽田野氏は自身の体が数センチほど宙に浮き、「納豆が、意思を持って踊っている!」と叫んでいたらしい。
現在、彼はそのあまりの混ぜ技術により、自宅の天井に張り付いたまま動けなくなっている。救助に向かった消防隊も、彼が混ぜている納豆のあまりの芳醇さと粘り強さに圧倒され、不用意に近づくことができない。消防隊長は「ネバネバの結界が強すぎて、ハシゴが滑る」と困惑気味だ。
羽田野氏は現在も天井から、「あと数回混ぜれば、たぶん空を飛べる」と冷静にコメントを出している。近隣住民は、彼の出す納豆の強烈な香りが漂ってくるたびに、重力が軽くなる現象に慣れつつあるという。次の目標は『混ぜる行為による時空の歪みの解明』とのことで、彼の銀河系最強の朝食作りはまだまだ終わらないようだ。
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