田所氏の工房には、山のように積み上げられた小麦色のパンの耳が所狭しと並んでいる。これらは近隣のサンドイッチ専門店から無償で譲り受けたものだという。田所氏は「食パンの耳には無限の可能性がある。特に耳の持つ独特の弾力と、焦げ目の香ばしさは、ただ捨てるにはあまりにも惜しい」と語る。
開発のきっかけは、朝食中に硬くなったパンの耳を投げたところ、壁に跳ね返って部屋の反対側まで飛んでいったことだった。田所氏はその強度に確信を得て、特殊な樹脂と強力な小麦粉の糊を使い、パンの耳を網目状に編み込む工法を考案。完成したチョッキは、一見すると中世の鎖帷子のようであり、焼きたてのパンの甘い香りが漂う。
実演会場には多くの期待と空腹を抱えた観衆が集まった。田所氏はチョッキをマネキンに着せ、いざ強度テストを開始。用意されたのは、強力なバネ仕掛けで放たれる、時速100キロの「硬いフランスパンの先端」を模した巨大な弾丸である。観衆が息を呑む中、弾丸が放たれた。
衝撃音が響き渡り、会場が粉塵に包まれる。静寂の中で砂埃が晴れると、そこには驚くべき光景があった。パンの耳チョッキは弾丸を見事に弾き飛ばし、原型を留めていたのである。しかし、観衆の注目は別の場所に集まっていた。
会場の空気が一変したのはその直後だ。チョッキが受け止めたのは物理的な衝撃だけではなかった。衝撃によって粉砕されたパンの粒子が周囲に飛び散り、あまりの芳醇な香りに会場全体が猛烈な空腹感に襲われたのだ。テスト終了後、観衆はチョッキに群がり、防御力を確認する前にボリボリと食べ始めた。
「防御力は完璧だったが、腹を空かせた観衆に食われてしまった」と田所氏は苦笑いする。現在、田所氏は「食べられる防弾チョッキ」として、災害時の非常食兼、身を守るシェルターとしての改良を進めているとのことだが、次のテストに向けた最強の敵は、近所の空腹な子供たちかもしれない。
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