会社員の羽田野健一さん(34)は、幼少期からの「納豆は混ぜれば混ぜるほど美味い」という信念を科学的に証明するため、過去半年間にわたり、毎日5時間かけて納豆を混ぜる生活を続けてきた。

使用したのは航空宇宙工学の技術を応用した特注のチタン製箸。秒間150回転という驚異的なスピードでかき回された大豆たちは、もはや固体としての矜持を捨て、泡と化した。羽田野さんはこの状態を『納豆の雲海』と呼ぶ。

実験開始から214日目、3万回を超えたその瞬間、どんぶりの中に発生したのは、一切の大豆成分を含まないにもかかわらず、なぜか納豆の香りが漂う「完全な空気の塊」だった。それは皿の上で意思を持つかのように浮遊し、羽田野さんの顔を撫でるように通り過ぎたという。

現場に駆けつけた近所の住人は「醤油をかけようとした瞬間に、その空気の塊が部屋全体に納豆の匂いを拡散させた。視覚的には何も見えないのに、鼻腔だけが納豆に占領されるという未体験の恐怖を感じた」と語った。

羽田野さん自身は、この成果に満足していない様子だ。「次は、この空気の塊を圧縮して『納豆の塊』として再構築し、食べるのではなく、納豆の味のする気球を作って世界一周を目指したい」と、さらなる高みを見据えている。

なお、現在、この『納豆の空気煮』を食べようとした羽田野さんは、勢い余って部屋の窓を全開にしてしまい、貴重な成果物が風に乗って近所の公園へと飛散していく様子を呆然と見送ったとのことである。