「これほどまでに広範囲を、しかもこれほど長期間にわたって一つの低気圧が移動し続けるケースは、過去の観測史上でも極めて稀です」。タスマニア島近海で発生したこの熱帯低気圧について、西尾太郎氏は驚きを隠さない。当初は局地的な荒天をもたらす程度の規模と見られていたが、それは予想を遥かに超える巨大なエネルギーを秘めていた。

同低気圧は勢力を維持したままニュージーランドを通過し、太平洋を北上。その後、驚くべきことに沖縄本島近海へと急進した。通常であれば北東へ進路を変えるはずが、そのまま鹿児島県へと上陸。西尾氏はこの不可解な進路変更について、太平洋高気圧と偏西風の極めて特殊な相互作用が背景にあると分析している。

列島を縦断するかのような動きは収まらない。淡路島を通過した低気圧は、本州を北上し、そのまま北海道へ上陸。各地で大気の状態が不安定となり、西尾氏は「気圧配置のバランスが崩れ、低気圧を誘導する気流のレールが地球規模で繋がってしまっている状態」と、そのメカニズムを解説した。

北の大地を抜けた後も勢力は衰えず、オホーツク海を経由してカムチャツカ半島へ。西尾氏が作成した予測モデルによれば、この低気圧は最終的に北極圏に到達し、そこで温帯低気圧へと性質を変えて消滅する見通しだ。「台風がこれほど緯度を超えて北上し、極地で終焉を迎えるのは、まさに地球規模の気象変動を象徴する出来事と言えるでしょう」と西尾氏は語る。

今回の現象を受けて、各国の気象機関も注視を強めている。西尾氏は引き続き、各地の観測データと照らし合わせながら、リアルタイムでの進路予測を発信し続けていく予定だ。この未曾有の「地球縦断低気圧」が、今後どのような影響を各地域にもたらすのか、専門家たちの間でも議論が尽きない。