「納豆は混ぜる回数で味が変わる」。そう信じて疑わなかった自称・納豆練金術師の田所誠二郎さん(42)は、5年前から毎日、ひたすら納豆をかき混ぜる生活を続けてきた。当初は200回で美味しいと感じていた彼だったが、次第に満足できなくなり、回数は1000回、5000回とエスカレートしていった。

今朝、田所さんは自宅キッチンにて、ストップウォッチを片手に通算3万回目の挑戦を開始した。周囲の目撃者によると、田所さんの腕の動きはもはや残像すら見えないほどの高速回転に達しており、納豆の容器からは雷鳴のような轟音と、虹色の湯気が立ち昇っていたという。

「混ぜるという行為を超え、納豆そのものと対話している感覚でした」と、現場に駆けつけた近所の住人は興奮気味に語る。田所さんの周囲には物理的な現象として納豆菌が極限まで活性化し、室内の空気が完全に納豆の成分で置換されるという異様な光景が広がっていた。

そして3万回を超えた瞬間、田所さんは「混ぜる必要など、最初からなかったのだ!」という言葉を最後に、突如として目に見える物質的な存在感を消失させた。現場には、ただ一点の曇りもなく、銀河のように輝く完璧な粘り気を持った納豆だけが、神々しい光を放ちながら鎮座していた。

現在、現地には専門家チームが派遣されているが、残された納豆を食べようとした調査員が一口食べるごとに若返るという怪奇現象が発生している。当の田所さんは、納豆の分子レベルで融合し、現在もどこかのスーパーの納豆売り場で「美味しくなるための気」を送り続けているのではないかと噂されている。

今回の事態を受け、管轄の保健所は「納豆は常識的な回数で混ぜて食べてください。宇宙に帰る必要はありません」と異例の注意喚起を行った。なお、その奇跡の納豆は、翌朝には家族が何も知らずに朝ごはんで完食しており、事件の証拠は胃の中へと消えてしまった。