「コラーゲンを含む食品を食べると肌に良い」という話や、逆に「コラーゲンを食べても分解されるからコラーゲンにはならない」という話を聞いたことがあるかもしれません。
コラーゲンと言えば、肌(皮膚)に含まれる成分というイメージを持っている方は多いかもしれませんが、実際にはどのような物質なのでしょうか。
今回はまず、コラーゲンがどのような物質であるかを紹介した後、実際に食品として摂取したコラーゲンがどのように吸収されるか(再度コラーゲンになるのか)について学術機関や企業の発信する情報を元にお話します。
コラーゲンはタンパク質の一種
一言で言えば、コラーゲンはタンパク質です。
実は、ヒトの身体を構成するタンパク質の中で最も多いものがコラーゲンで、全タンパク質の約30%を占めるとされます。皮膚だけではなく骨や血管など身体の様々な部位に存在しています。
コラーゲンと言うと「美肌成分」というイメージが強いかもしれませんが、そればかりではありません。たとえば、骨はその65%がカルシウムやリンなどの無機質からできていますが、25%を占める有機物の大半はコラーゲンなのです。
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コラーゲンは細胞外基質(細胞外マトリックス)と呼ばれる、細胞の外にある、細胞を支えたり接着したりする役割を持つ成分に分類されます。
細胞外基質は他にもエラスチン、フィブリリン、フィブロネクチン、プロテオグリカンなどがありますが、その中でもコラーゲンが最も多いとされます。
コラーゲンはさらに、Ⅰ型コラーゲン、Ⅱ型コラーゲン…と複数の種類に分類され、約30種類があります。体内のコラーゲンも、身体の組織によって存在する種類が異なります。
例えば、皮膚の真皮にはⅠ型コラーゲンやⅢ型コラーゲン、軟骨にはⅡ型コラーゲン、毛を成長させる毛包幹細胞にはⅩⅦ型コラーゲン(17型コラーゲン)が含まれます。
コラーゲンの構造
コラーゲンはタンパク質ですので、アミノ酸から構成されます。コラーゲンを構成する主なアミノ酸はグリシン、プロリン、ヒドロキシプロリンの3種類とされます。
これらのアミノ酸が繋がった構造(ポリペプチド)が3本が螺旋状に巻き付いた構造が集まってコラーゲンとなります。
分子量約10万の3本のポリペプチド鎖が右巻きのらせん構造(トリプルへリックス)をとります。グリシン、プロリン、ヒドロキシプロリンに富み、強い張力に耐えられます。
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この3本が螺旋状になった構造の単位をトロポコラーゲンと呼びます。このトロポコラーゲンがいくつも集まったものがコラーゲン(コラーゲン繊維)です。
コラーゲンの分解と吸収について
コラーゲンは他のタンパク質と同様に胃腸でアミノ酸単位に分解されるか、ペプチド単位(いくつかのアミノ酸が結合した状態)で吸収されるということが報告されています。したがって、コラーゲンを食べても直接そのまま吸収されて自分のコラーゲンとなることはありません。
さらに、前述したようにコラーゲンの主なアミノ酸はグリシン、プロリン、ヒドロキシプロリンの3種類ですが、このうちヒドロキシプロリンだけは吸収することができず排泄されます。
したがって、ヒドロキシプロリンはプロリンから体内で合成する必要があります。その際、ビタミンCが不足しているとヒドロキシプロリンを作ることができません。
食事でコラーゲンをたっぷり摂ってもグリシンとプロリンしか体の中に入ってこないため、体内でコラーゲンを合成するにはヒドロキシプロリンを作らなくてはなりません。…
ヒドロキシプロリンはプロリンから作られていますが、補酵素であるビタミンCが摂れていないと、きちんとしたコラーゲンを作ることができません。
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しかし、分解後のアミノ酸からコラーゲンが合成されやすくなる可能性があります。
実際、マウスの実験では、コラーゲンを含む飼料で育てた場合、コラーゲンの合成量の増加が確認されたという報告が複数あります。
本研究で、経口摂取したコラーゲンが生体内の消化酵素によって分解され、そのペプチドやアミノ酸の血中濃度が増加した場合、骨や軟骨、皮膚、さらに内分泌器官ともいわれている脂肪細胞にも効果的に作用することが判明し、細胞培養系でのコラーゲンの経口摂取の有効性が示唆された。
軟骨コラーゲン分解物が間葉系の培養細胞に及ぼす影響 北海道大学 農学部/大学院農学院/大学院農学研究院 食品素材開発学分野 安倍恵
本研究により、コラーゲン水解物を摂取することにより、皮膚再生過程に関与する制御因子に対して有意な影響が出ることが始めて明らかになった。我々のこれまでの結果と合わせて考えると、吸収されたコラーゲン由来のペプチドが生理活性を有し、再生プロセスに関与する細胞群に大きな影響を与えている可能性が高い。
宇都宮大学 生物生産科学科 応用生物化学コース ラット皮膚創傷回復に対するゼラチン酵素水解物摂取の効能
ただし、前述したように、コラーゲンは皮膚以外の部位にも多く存在します。したがって、コラーゲンが合成されたとしても皮膚だけに使われるわけではありません。
全身のどこかのコラーゲンが合成されると考えるのが自然です。
食べ物に含まれるコラーゲンにはグリシンやプロリンが多く含まれますから、消化の際にいったん分解されても、結果的には体のコラーゲンになる割合が高いとはいえます。
その意味では、コラーゲンを多く含んだものを摂ることに意味がないとはいえませんが、そうやって摂取しても都合よく肌に利用されるとはかぎりません。肉を100グラム食べればもう十分に必要量のコラーゲンを摂れるわけですから、前述したように意識して摂る必要はほとんどないでしょう。
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コラーゲンは老化によって弾力性が失われる
年を取るとコラーゲンの生成力が低下します。これは、食事でコラーゲンを十分摂取していても起こる現象です。高齢でも肌が若々しい人がいますが、詳しい理由は現時点では不明とされます。
したがって、コラーゲンをたくさん摂取すれば肌に艶が現れるという単純な話ではないということがわかります。これから遺伝的な要因が解明されていくことが期待されます。
おしまい
口から摂取したコラーゲンのアミノ酸の一部は吸収されることがわかりました。しかし、それが直接肌のコラーゲンとして利用されるかは不明です。
コラーゲンを含む健康食品を購入する際には、このことを念頭に置いておくと良いと考えられます。
この記事には、以下の書籍の内容を参考および引用している部分があります。
その他の参考文献
福岡大学 理学部 機能生物科学研究室 細胞接着分子
コラーゲン – 健康用語WEB事典 に表記された参考文献