放射線に関わる単位であるベクレルとシーベルトとグレイについて

最終更新日時 : 2018年2月8日
放射能のハザードシンボル

以前、放射性物質とそれが出す放射線の種類などについて以下の記事で紹介しました。

放射線とは何か 放射線の実態と人体に及ぼす影響

今回は、放射線に関わる単位と、実際に健康上の問題となる被曝量についてまとめます。放射線に関わる単位は複数あり、それぞれ表す意味が異なるので注意が必要です。

放射線に関わる単位

まず、以下の単位の定義や意味についてです。

ベクレル(Bq)

放射能の強さを表す単位がベクレルBq)です。放射能とは、上記の記事でも紹介した通り、物質が放射線を出す性質(能力)のことです。

単位名の由来は、放射線の発見者であるアントワーヌ・アンリ・ベクレル(Antoine Henri Becquerel)です。

アントワーヌ・アンリ・ベクレルの写真(パブリックドメイン)

具体的には、1ベクレル(1Bq)は1秒間に1個の放射性崩壊(放射性壊変)を起こす放射性物質の量を表します。

崩壊する放射性物質の量が多くなれば、通常はそれに比例して出される放射線の量も多くなるため「放射能の強さを表す」と言い換えられるわけです。

単独ではなく、単位面積あたりの放射能(Bq/m2)や単位体積あたりの放射能(Bq/L)、単位質量あたりの放射能(Bq/kg)として使用されます。

放射能の単位にはベクレル(Bq)を用います。1Bqは1秒間に1個の放射性壊変をする放射性物質の量を表します。なお、ベクレル(Bq)が単独で使われることは少なく、単位体積当たり又は単位重量当たりの放射能の強さを表すBq/リットル、Bq/kgなどがよく使われます
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 放射能と放射線の単位

例えば、ある食品1kg中に放射性元素であるセシウムが含まれており、それらのうちの10個が1秒間に放射性崩壊を起こしたとすると、その食品は 10 Bq/kg の放射能を持つと言えます。

ちなみに、これは実際の飲料水中の放射性セシウムの規格基準です(詳細: 厚生労働省 ⾷品の基準値の設定について(1)

さらに厳密には「放射性崩壊を起こす物質の量」だけを表すのであり、その崩壊時に出る放射線の種類は問題ではないとされます。また、1Bqだからといって1本の放射線が出るというわけでもないようです。

1秒間に1個の原子核が崩壊することが1Bq
Bqの定義に「放射線」は関係ない
・どのような崩壊形式でも、どんな放射線を出そうと全く関係ない
・崩壊する時に放射線を出すことがあるよ、という話。
Bqにつき放射線が1本放出される、というわけでもない。
・137Csの場合、原子核が1個壊れるとγ線が(確率上)0.85本放出される
放射線計測学 放射線の測定原理・方法・問題点 小豆川勝見 東京大学 教養学部/大学院総合文化研究科

多くの場合、異なる放射性物質でも、ベクレルが等しければ放出される放射線量はほぼ同じと考えられるとされます。

定義は、「○○ベクレルの放射性物質があると、1秒間に平均で○○回の原子核の崩壊がある」ということなのだが、これは(物理を専門にやった人以外には)なかなかピンと来ないだろう。種類のちがう放射性物質でも、ベクレルで測った量が同じなら、そこから出てくる放射線はだいたい同じくらいだと考えていい。これが、ベクレルを使う利点の一つだ。
学校法人 学習院 シーベルトとかベクレルってなに?(放射線と原子力発電所事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説)

放射性物質の「半減期」とは、この放射性崩壊によって物質の量が、ある時点から見て半分になるまでにかかる時間のことです。

つまり、ベクレルは「放射性崩壊」という物理的現象の程度を表す単位です。この崩壊によって放出される放射線の種類などは問題にしておらず、この単位だけでは、直接人体への影響などを測ることはできません。

実際に人を含めた生体の被曝量(線量)や被曝の影響を表す単位は、次に紹介するシーベルトです。したがって、ベクレルからシーベルトに換算するための係数(実効線量係数)によってシーベルトに変換されて評価される場合が多いです。

シーベルト(Sv)

シーベルトは、人体が放射線を受けた場合の影響を表す単位です。放射線による身体全身の影響を表す実効線量を示すのに使用されます。

シーベルトの単位名は、放射線の影響を研究し、シーベルト電離箱などを発明したロルフ・マキシミリアン・シーベルト(Rolf Maximilian Sievert)に由来します。

ロルフ・マキシミリアン・シーベルトの写真

ベクレルが放射性崩壊という物理現象の程度を表す単位であるのに対して、シーベルトはその崩壊によって発生した放射線を実際に被曝した場合の影響を直接数値で表す単位です。

放射線の種類や被曝の仕方などを全て考慮した数値(実効線量)に使用される単位であるため、その数値を見るだけで全身にどれほどの影響があるかがわかります。

シーベルト(Sv)は、放射線被ばくの量を表す単位で、人体が放射線を受けたとき、その影響の度合いを意味します。
放射線の人体への影響の程度は放射線の種類(α線、β線、γ線)やエネルギーによって異なります。また、放射線を受けた人の組織・臓器によっても影響の程度は異なります。
放射線の種類や組織・臓器ごとの影響を全身で合計したものが実効線量(単位はシーベルト)です。実効線量が同じであれば、放射線の種類、放射線の受け方(外部被ばく、内部被ばく)、さらに自然放射線か人工放射線かの違いなどに関わらず、人体に及ぼす影響は同じと判断できます。
東京都健康安全研究センター 放射線基礎知識編 放射線の単位にはどのようなものがありますか?

通常、シーベルト(Sv)では表す量が大きいため、ミリシーベルト(mSv)が使用されることが多いです。100mSv(ミリシーベルト)以下の被曝では、発がんに統計的な差はないとされます。

例えば、食品に含まれる放射性物質の量(ベクレル)から線量(シーベルト)の変換は、以下のような計算によって行われます。

線量(mSv) = 放射性物質の量(Bq/kg) × 摂取量(kg) × 実効線量係数(mSv/Bq)

グレイ(Gy)

放射線が当たった物質は、放射線からエネルギー(熱量)を吸収します。単位質量あたりでエネルギーをどれだけ吸収したかを調べることで、どれだけの放射線を受けたかを表す「吸収線量」を計算することができます。

グレイの単位名は、放射線が生体に与える影響を研究したルイス・ハロルド・グレイ(Louis Harold Gray)に由来します。

この吸収線量を表す単位がグレイGy)です。

1グレイは、物質1kgあたり1ジュールのエネルギー吸収があるときの吸収線量であり、放射線の種類、物質の種類に関係なく使用されます。なお、ジュールはエネルギーの単位で、1カロリー=4.184ジュールです。国際放射線防護委員会(ICRP)は、人体の吸収線量について、特定の臓器や組織が吸収する放射線エネルギーをその重量で割って、「1kg当たり平均1ジュールのエネルギーを吸収する被ばく線量」を1グレイと定義しています。
放射線防護に用いる量と単位 ~第2回 グレイとシーベルト~ -首相官邸ホームページ-

グレイも、前述のシーベルトに変換されて評価されます。緊急時は1グレイと1シーベルトを等しいと考えて良いとされます。

身の回りの環境からの放射線による外部被ばく量の実効線量の評価は、空間でのあらゆる方向からの被ばく線量によるため、モニタリング指針(※)では空気吸収線量率(μGy/h(マイクログレイ/1時間あたり)を測定して求めることになっています。空気吸収線量(グレイ)から実効線量(シーベルト)を求めるには、緊急時は1グレイ=1シーベルトとして換算できるとしています。
東京都健康安全研究センター 放射線基礎知識編 放射線の単位にはどのようなものがありますか?

放射線の被曝量と健康への影響

前述の通り、人体への影響は主にシーベルトで評価されます。問題となるのは100mSv以上の被曝です。

被曝量と健康への影響について

数百シーベルト以上の被曝によって眼の水晶体の白濁や骨髄の造血の異常が現れ、1シーベルト(1000ミリシーベルト)以上の被曝によって生殖機能の異常や脱毛が起こるとされます。

出典: 大阪府立大学 放射線研究センター 秋吉優史 放射線の基礎、利用、人体影響

おしまい

以上が放射線に関わる主な単位です。より詳しい説明は引用元の資料などをご覧いただければと思います。

自然からの放射線で常に被曝していると聞くと少し心配になりますが、その程度では健康上の問題とはならないようです。

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