「チョコレートを食べると鼻血が出る」という話を聞いたことがある方は多いと思います。
この話は医学的・科学的な根拠があるのでしょうか。今回はチョコレート鼻血原因説についてまとめます。
鼻血が出るための条件
まず、どうすれば鼻血が出るのかについてです。
「病気が原因ではない普通の鼻血」の原因となるのは、鼻の奥の血管(静脈や毛細血管)が切れることです。キーゼルバッハ部位と呼ばれる粘膜が柔らかい部分が切れることが多いとされています。
子どもの鼻血のほとんどは鼻の前の部分からの出血です。ここはキーゼルバッハ部位といわれ、この部分の粘膜はやわらかく、鼻中隔(ちゅうかく)の軟骨に密着しているために傷つきやすいのです。この部位からの鼻血は毛細血管または静脈からの出血なので、小量の出血がゆっくり出る傾向があります。
鹿児島大学医学部 こどもの鼻血
当然ですが、鼻血が出るには血管が切れる必要があります。
もし食べ物によって鼻血が出るとすれば、食べ物に含まれている成分が血管に何らかの影響(収縮や拡張)を起こさなければいけないことになります。
では、チョコレートの原料には血管に影響のある成分が含まれているのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
チョコレートの元はカカオ
チョコレートはカカオマス(カカオ豆の胚乳を発酵、乾燥させて、それを焙煎して砕いたもの)、砂糖、牛乳などが主な原料です。
砂糖は血糖値を上げるため、血管に影響のある材料であることは確かです。牛乳も吸収される以上、血液中に何らかの変化を起こす可能性もあります。
しかし、もし砂糖や牛乳によって鼻血が出るのであれば、他のお菓子やそれ単体でも「鼻血が出る」と騒がれていなければおかしいことになります。
つまり、チョコレートで鼻血が出るのであれば、その原因となる物質はカカオマス(カカオ豆)にあるはずです。
カカオが原因であるならば、それが原料のココアもまた鼻血の原因になりえます。
カカオに含まれる血管に影響する成分
それでは、カカオに含まれる成分について詳しく見ていきましょう。
カカオポリフェノール
カカオには、以前も紹介しましたカカオポリフェール(主にエピカテキン)が含まれていることは有名です。
しかし、これが鼻血の原因になるとすれば、エピカテキンを含む緑茶を飲んでも鼻血が出るはずです。
個人的には、緑茶で鼻血が出ると言う話は聞いたことがありません。検索しても、ヒット数はチョコレートに比べてかなり少ないです。
したがって、カカオに含まれるポリフェノールは原因ではないと考えられます。
テオブロミン
アルカロイドの一種で、依存性のある物質です。カフェインに似た物質で、実際にコーヒーノキにも含まれます。
茶やコーヒー、チョコレートには、中枢神経系(脳)を刺激し、末梢器官にも様ざまな影響を及ぼすカフェインあるいはその類似化合物のテオブロミン、さらにポリフェノール類や各種アミノ酸、ビタミン類などが心身に何らかの有益効果を発揮するからである。カフェインやテオブロミンは依存性を持つ薬物で、摂取欲求を引き起こす。
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テオブロミン:血管径を拡張し、尿量を増加させる。言うまでもなく、テオブロミンはカカオ豆中の主要アルカロイドで、チョコレートに多く含まれている。
東京福祉大学 大学院紀要 日常生活の中におけるカフェイン摂取 -作用機序と安全性評価-
チョコレートに多く含まれることが確認されており、さらに血管の幅を拡張する作用が報告されている物質で、切れやすい血管を拡張することで鼻血を誘発する可能性があるかもしれません。
カフェイン
カフェインは血管に影響する成分です。鼻血に関わっている可能性は否定できませんが、カフェインと鼻血の関係を扱っている大学関係や医療関係のサイトは見つかりませんでした。
ブログでは取り上げているところもありましたが。
もしカフェインが鼻血の主要な原因物質であるならば、コーヒー愛好家は頻繁に鼻血が出ているはずですが、あまりそういった話は聞きません。
チラミン
発酵食品に含まれる成分です。特にチーズやワインが有名です。
実際に急激な血圧上昇を引き起こし、頭痛の原因になることが報告されています。
チラミンはアドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン、セロトニンなどと同じモノアミンに属する簡単な化合物で、酵母などによって生合成されるので発酵食品にかなり多量に含まれている物質である。
しかし、血中に入ると急激な血圧上昇と頭痛を引き起こし、卒倒する危険がある。食物中のチラミンは消化管にあるモノアミンオキシダーゼB(MAOB)によって分解されて血中には入らず、生体内の濃度は微量である(そのため「稀少アミン」と呼ばれる)。
うつ病の治療で MAOB 抑制剤を投与された患者がワインを飲みながらチーズを食べると発症するのでかつて問題になった(チーズ効果)。
明治大学 「心の科学の基礎論」研究会 小松明(東京女子医科大学/神経生理学)
急激な血圧の上昇は血管に負担をかけることになります。切れやすく脆い血管であれば、これによって出血する可能性は否定できません。
もしかすると、チョコレート鼻血原因説の原因物質はチラミンである可能性があります。
しかし、チーズも鼻血の原因になるのでしょうか。
子どもには影響があるかもしれない
大人であれば、上記の物質にある程度耐性を持っている可能性があります。
実際に、鼻血が原因で耳鼻咽喉科に来る患者は子どもが多いそうです。
はなぢはこどもによくみられます。耳鼻咽喉科に来られる患者さんのなかでも9歳までのお子さんが全体の3割程度と最も多く、次いで10代、20代となっています。こどものなかでも5~6歳の就学前後が最も多いようです。
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5歳から10歳くらいのこどもの鼻の粘膜は血管が豊富に発達していますのでほんの少し鼻をさわっただけでもはなぢが出やすいといえます。
耳鼻科mini知識-岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学
子どもの場合、カフェインなどにも耐性がありませんから、血管への影響が大きく出血してしまう…ということも考えられます。
子ども限定として見た場合、子どもはコーヒーやチーズやワイン(!)を口にする機会は少ないため、同じ鼻血の原因(と考えられる)成分を含んでいるこれらの食品では鼻血が問題にならないという可能性があります。
砂糖や牛乳は子どもも口にしますが、これらによる鼻血は報告がないので、やはり原因物質があるとすればカカオに含まれることになります。
あくまで想像ですが、おやつにチョコレートを子どもに与えたら鼻血を出したのを見た親世代の間で話が広まったのかもしれません。
鼻血とチョコレートは国内だけの噂ではない
「nosebleed chocolate」などのキーワードで検索してみると、海外でもチョコレートと鼻血に関する議論があるのがわかります。
国内だけであれば、しつけのために出てきた嘘話という可能性は高くなりますが、海外でも議論されているとなると、何かしら関係があるという見方もできると考えられます。
おしまい
正確な含有量が分からなければくわしい議論はできませんが、確かにチョコレート(カカオ)には、血管に影響を与える成分が含まれていました。
もちろん鼻血の出やすさには個人差があります。ある人には効果のある物質も他の人では全く効果がないと言う場合もあります。
しかし、単なる迷信にしては、世界的に見られる話になっているのは妙に思えます。
健康に関するものはきっちり白か黒か(良いか悪いか)を決定できない部分があるため、上記のような可能性がある程度に見ると良いと考えられます。
参考
チョコレートができるまで|ようこそ明治の工場見学へ|株式会社 明治
研究内容 | 加藤研究室(植物生理学)
活動報告|関西大学・大阪医科大学・大阪薬科大学 – 三大学医工薬連環科学教育研究機構