体の柔軟性は個人差・性差などがあります。しかし、長期間ストレッチ(ストレッチング)を続けると、体が柔らかくなることが確認されています。
ストレッチングを日常的に長期間行うことで,柔軟性の向上が示されている(Gajdosik et al. 2005, 2007; Guissard et al. 2004; Kubo et al. 2002a, b, 2003; Toft et al. 1989).
ストレッチングは受動的または能動的に関節を動かすことで,関節を構成する組織の伸長性を高めて柔軟性を向上させる(Harvey et al.2002; Magnusson et al. 1996b; McNair et al. 2001, 2002).
早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科 博士学位論文 柔軟性に影響を及ぼす因子とその可塑性
ですが、そもそも体が硬いことは問題なのでしょうか。今回は、体が柔らかいことによるメリットと硬いことによるデメリット、ストレッチの効果と注意点、柔軟性と筋肉と腰痛の関係などについて紹介します。
柔軟性の定義
柔軟性は「身体の関節の可動性により、身体運動を円滑にかつ広範囲に行える体力要素」と定義されます。
関節の動く範囲が大きければ柔軟性が高いと言えます。
柔らかい体のメリット
柔軟性のある体には以下のような利点があります。
怪我の予防効果
最もよく知られているメリットは、怪我をしにくくなることだと思います。
実際に、足関節の可動範囲(range of motion : ROM)が小さい人(つまり関節の硬い人)の方が捻挫の経験が多いことがわかっています。
外力により関節の動かされる範囲である受動的な柔軟性を向上させることで,傷害の予防につながることも知られている(Bixler and Jones 1992; Ekstrand et al. 1983; Witvrouw et al. 2001, 2003).Wiesler et al.(1996)は,ダンスを専攻する学生を対象として,下肢の既往歴と足関節のROMとについて検討している.その結果によると,捻挫などの既往歴のある者は足関節背屈ROMが有意に小さい.
早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科 博士学位論文 柔軟性に影響を及ぼす因子とその可塑性
体が硬い人はどうすればいいのかというと、柔軟性は短時間のストレッチの直後でも一時的に良くなることがわかっています。
運動前にストレッチをすることは一般的に行われていますが、これによって怪我の確率を下げることができます。
ストレッチについては後ほど詳しく紹介します。
血管の健康維持
体が柔らかいということは、血管が健康である証となります。
柔軟性については、最近の研究により(山元、2011)、心筋梗塞や脳卒中などの心臓血管系の発症リスクとなる動脈の硬化との関係も報告されている。その研究では、血管の硬さ(動脈スティフネス)は平滑筋や結合組織(エラスチンやコラーゲン)の内因性の弾性特性によって決定され、体の硬さ(柔軟性)も骨格筋や腱、靱帯、筋膜の結合組織で決定されることに着目している。
鹿児島大学学生の柔軟性の現状について
実際に40歳以上では、長座体前屈の成績が悪い人は、血管が硬くなっていることが報告されています。
他の研究からも、筋と血管の柔軟性に関係があることが示唆されています。
これまで,筋と血管の伸展性については別個に調べられてきたため,両者は相関するのか否か分からなかったが,本研究の結果では,安静時,伸長時ともに,動脈伸展性が高い者は隣接筋の伸展性も高いという相関関係が認められた.
KAKEN — 筋の柔軟性が上位動脈血管の伸展性を高めるのか?
つまり、体の柔軟性をキープできれば、血管の劣化を防ぐことができる可能性があると言えます。
ストレッチの効果と注意点
先ほども少し述べましたが、ストレッチには急性効果(ストレッチ直後に得られる効果)があり、運動前に行うことで怪我をしにくくなります。
また、継続的にストレッチをすることで、血管(動脈)の硬化を改善する効果も期待できます。
Cortez-Cooperら(2008)は、中高齢者を対象に、筋力トレーニングが動脈スティフネスに及ぼす影響について検討した結果、トレーニング効果はみられなかったと報告している。しかしながら、その研究において、ストレッチングを実施させた対照群では、頸動脈の伸展性が有意に向上(動脈スティフネスが低下)していた。このことから、中高齢者でも、ストレッチングによって柔軟性を向上させることにより加齢に伴う動脈の硬化を改善する可能性があるとみられている。
鹿児島大学学生の柔軟性の現状について
注意点としては、長時間のストレッチは筋力を低下させる可能性があります。
ストレッチが8分以内であれば問題ありませんが、それ以上続けると筋力が落ちることが確認されています。
ストレッチングが柔軟性以外に及ぼす影響に関する報告として,発揮筋力や跳躍高などのパフォーマンスに関するものがある(Avela et al. 1999, 2004; Behm et al. 2001,2004; Fowles et al. 2000; Kokkonen et al. 1998, 2007; Nelson et al.2001b; Ryan et al. 2008; Young et al. 2001).
これらの報告では,ストレッチング後に筋力や跳躍高の低下を多く報告している.ストレッチング後にみられる筋力の低下にはストレッチングの時間が影響し,30-480 秒間程度であれば,ストレッチング後の筋力は有意に低下しない(Avela et al. 1999; Behm et al. 2004; Egan et al. 2006; Muir et al. 1999).
しかし,ストレッチングの時間がそれ以上になると,筋力の有意な低下が報告されている(Fowes et al. 2000; Kokkonen et al. 1998; Ryan et al. 2008).
早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科 博士学位論文 柔軟性に影響を及ぼす因子とその可塑性
筋肉と柔軟性の関係
一般に柔軟性は女性の方が高いですが、それとは別に、柔軟性は筋力に依存するようです。
つまり、同じ性別の2人の柔軟性を比べた場合、筋肉が多い人の方が柔軟性が高い傾向があるということです。
18歳の学生741人を対象に筋力と柔軟性の関係を調べた研究によれば、腹筋と背筋の筋力が強い方が長座体前屈の成績が良かったことが報告されています。
柔軟性を左右する因子の1つに筋力があげられており、筋力が大きいほど柔軟性が高いと指摘されていることから(川上ら、2004)、長座体前屈に関連する体幹部の筋力も長座体前屈の測定値に影響する可能性があると考えられる。そこで、長座体前屈の18歳大学生の全国平均値を基準にして、本学学生を上位群と下位群に大別し、長座体前屈と体幹部の筋力との関係について検討することにした。
鹿児島大学学生の柔軟性の現状について
筋肉が少ないと腰痛になり柔軟性もなくなる
腹筋の強さと腰痛には関係があることが指摘されており、実際の調査でもその傾向があることが確認されています。
山本(2001)は、体育大学新入生1,566名を対象に、上体起こしテストを行うとともに、腰痛の自覚症状の有無を調査している。その結果、測定値30回以上の者に比べ、
測定値25回未満の者では腰痛症保有率が2倍となっており、上体起こしテストの測定値が低い者ほど腰痛を訴える者が多い傾向にあったと報告している。
鹿児島大学学生の柔軟性の現状について
このサイトでも、腹筋が腰痛に関係することは以前紹介しました。
先ほどの「筋肉と柔軟性の関係」と合わせて考えると、筋力の低下は柔軟性の低下と腰痛の原因になり得ることがわかります。
したがって、筋力をつけることが柔軟性の維持には必要と言えます。
おしまい
筋肉をつけることが柔軟性を高めることに繋がることは意外でした。
体を柔らかくするには継続的に正しい方法でストレッチをする必要があります。
柔らかくしたい部位にあったストレッチを確認して行うと良いと思います。