牛乳は、日本において奈良時代から飲料として存在していたことが確認されています。
牛乳の存在が史料上はじめて確認されるのは孝徳朝である。屋王邸跡から出土した木簡、いわゆる長屋王家木簡に「牛乳」がみえることによって奈良時代における牛乳の利用が判明した。
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乳を飲用する際には牛乳を一二度沸騰させる、つまり古代においても牛乳には現代と同様に熱気消毒が行われていたのである。したがって、②の牛乳を煎たのは牛乳を飲用するための処置であったとも解釈できる。
佐藤健太郎 古代日本の牛乳・乳製品の利用と貢進体制について
古代から飲まれてきた牛乳ですが、非常に栄養豊富な飲料であることがわかっています。
哺乳動物の乳には、タンパク質とその関連物質が100種類以上含まれているとされていますが、牛乳もまた様々なタンパク質を含んでいます。
今回は、牛乳に含まれる主要なタンパク質の種類と、それらの働きについて紹介します。
牛乳が含むタンパク質の種類
牛乳に含まれる主なタンパク質は以下の通りです。
まず、牛乳はカゼインと、その他のホエイ(ホエーや乳清とも呼ばれます)に分けることができます。
ホエイというのは、牛乳からカゼインを除いた薄黄色の透明な液のことです。
カゼインについて
カゼインは、アミノ酸(セリン)とリン酸が結合したリンタンパク質であり、これは乳特有の成分であるとされます。チーズの元になる成分でもあります。
(カゼインは、厳密にはα、β、γ、κという種類に分類されますが、ここでは詳しい説明は割愛します)
牛乳が白く見えるのは、カゼインや乳脂肪の粒子などに当たった光の反射によるものです。脂肪を取り除いても白く濁っていることから、カゼインの影響が強いと考えられます。
牛乳は、蛋白質であるカゼインや乳脂肪の細かい粒子が1ml当たり10数兆個ほど乳濁している液体です。この粒子に光が当たり乱反射されるので白色にみえます。
東北大学 多元物質科学研究所 村松淳司 微粒子合成化学・講義
牛乳中では,カゼインカルシウム・りん酸カルシウム複化合物として,平均直径100nmのミセルになっており,牛乳白濁の原因である。
食品化学便覧,共立出版(株),食品化学便覧編集委員会編 牛乳蛋白質の種類と割合
牛乳は白く濁ったコロイド溶液である。脱脂処理により脂肪球を除いても白く濁っている。この光の散乱は脂肪球だけでなく、タンパク質が巨大会合体を形成しているためで、30〜300nmの粒径(平均粒径120nm)を持つカゼインの会合体、カゼインミセルによっている。
岩手大学農学部 農業生命科学科 乳タンパク質におけるカルシウム動態とその応用
牛乳には、新生児の骨を育てるために必要なリン酸カルシウムが大量に含まれていますが、不溶性部分は全てカゼインと結合しています。通常、リン酸カルシウムは中性の液体には溶けません。しかし、カゼインと結合することで、リン酸カルシウムは中性の液体に溶けることができるようになります。
また、カゼインとリン酸カルシウムの結合部分はホスホペプチド(CPP)と呼ばれ、これがリン酸とカルシウムの吸収を促進する役割を持っているとされます。
乳のみに依存し、しかも成長の早い幼動物では、タンパク質だけでなく、骨形成のためにカルシウムおよびリン酸を大量に摂取する必要がある。しかし、リン酸カルシウムは中性域では不溶性であり、それを溶解形で摂取可能にしているのがカゼインミセルという形態である。さらに、腸内での不溶化を阻止し吸収可能な形にしているのがCPPである。
佐藤健太郎 古代日本の牛乳・乳製品の利用と貢進体制について
このように、カゼインはタンパク源としてだけではなく、牛乳内の成分を吸収されやすい形にしてくれる働きを担っていると考えられています。
ホエイについて
ホエイ(乳清)には、様々なタンパク質が含まれ、以下のような健康効果が確認されています。
- 免疫賦活作用
- 酸化防止作用
- 抗圧作用
- 抗腫瘍作用
- 脂質低下作用
- ウイルス感染防御作用
- 抗菌作用
- キレート作用
牛乳のホエイでは,主要な成分としてβ-ラクトグロブリン,α-ラクトアルブミン,血清アルブミンと免疫グロブリン,わずかに含まれる成分としてラクトフェリンがあるほか,ビタミン結合タンパク質などの微量タンパク質の存在も知られている。
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ホエイは,数々の健康上の利点から機能性食品としても注目されている。ホエイタンパク質画分は,4つの主要なタンパク質画分,β-ラクトグロブリン,α-ラクトアルブミン,血清アルブミン,および免疫グロブリンを含む。ホエイの構成成分は,免疫賦活作用(Low PP et al., 2003),酸化防止作用(LinksBrown EC et al., 2004),抗圧作用(Saito T. 2008),抗腫瘍作用(Bounous G et al., 1991),脂質低下作用(Marshall K et al., 2004),ウイルス感染防御作用(Neurath AR et al., 1996),抗菌作用(Shah NP et al., 2000)と,キレート作用(Hurrell RF et al., 1989)などを示すことが知られている。
日本大学大学院生物資源科学研究科 山口真 牛乳由来α-ラクトアルブミンの抗炎症作用に関する研究
また、ホエイの特徴としては、カゼインよりも胃の通過が容易であることが挙げられます。
ここでは、前述の3種類のタンパク質について紹介します。
β-ラクトグロブリン
β-ラクトグロブリンは、栄養学的には必須アミノ酸をバランスよく含むタンパク質です。しかし、牛乳アレルギーにおける最も強力な原因物質(アレルゲン)とされています。
栄養源として以外の性質は、炎症性サイトカインを抑える効果が確認されています。
β-ラクトグロブリンも炎症性サイトカインである IL-6 の産生抑制効果を示した。これは,虚血により引き起こされる障害が酸化ストレスを含んでいることと,β-ラクトグロブリンのアミノ酸配列に,グルタチオンの生合成に使われる前駆配列が含まれていることが関係していると考えられる。
日本大学大学院生物資源科学研究科 山口真 牛乳由来α-ラクトアルブミンの抗炎症作用に関する研究
α-ラクトアルブミン
マウスによる実験によって、α-ラクトアルブミンに鎮痛作用や大腸がんを予防する効果が示唆されています。
本研究では,α-ラクトアルブミンは炎症性疼痛における予防および治療効果を有することを実証した。また,α-ラクトアルブミンは IL-6 の生成を阻害することにより鎮痛および抗炎症効果を発揮した。
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本研究では,AOM と DSS により誘導された大腸発がんに対する,α-ラクトアルブミンの効果を評価することを目的とした。この研究から,α-ラクトアルブミンは,この動物モデルにおいて大腸発がんを抑制することが明らかになった。
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また,α-ラクトアルブミンはがん進行段階においても炎症関連物質の抑制を通して慢性炎症を改善することも明らかになった。
日本大学大学院生物資源科学研究科 山口真 牛乳由来α-ラクトアルブミンの抗炎症作用に関する研究
ラクトフェリン
以前紹介したように、ラクトフェリンにはノロウイルスに対する予防効果や皮膚の保護作用などが確認されています。
おしまい
牛乳は、上記のタンパク質の他にも豊富なカルシウムを含んでいます。乳からのカルシウム吸収率は比較的高いため、牛乳アレルギーや乳糖不耐症でない方は積極的に飲むと良いと考えられます。
ホエイのタンパク質は粉状で販売されているものもあります。筋肉をつけるために効果的なようです。
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