イミダゾールジペプチドという成分をご存知でしょうか。
イミドペプチドやヒスチジン関連化合物とも呼ばれます。
化学的には、イミダゾール基と呼ばれる化学構造を持つ、アミノ酸が2つ結合した物質(ジペプチド)の総称です。
主に魚類や鳥類、哺乳類などの筋肉・筋骨格、脳に多く含まれる物質で、長時間運動を行う回遊魚や渡り鳥に多く含まれることから、その持久力の源となる物質ではないかと注目されてきました。
渡り鳥は長距離を休むことなく飛び、回遊魚は大陸をまたぐほどの長距離を泳ぐ。動物の驚くべき運動能力は、筋組織中に含まれている、抗酸化作用を有し疲労を和らげるはたらきを持つイミダゾールジペプチドという物質によって支えられている。
東京大学大学院新領域創成科学研究科 体内抗酸化ジペプチドの認知症予防作用発見
このイミダゾールジペプチドは、研究によって抗酸化作用を有することが確認され、さらに、実際にマウスや人間への投与実験で、その疲労回復効果が実証され、現在はサプリメントなどの商品として販売されています。
今回は、このイミダゾールジペプチドの種類やその健康への影響について紹介します。
イミダゾールジペプチドの種類
以下の3種類が主なイミダゾールジペプチドです。
動物の種類によって含まれるイミダゾールジペプチドが異なることがわかっています。
ホモカルノシンなど、関連するイミダゾールジペプチドが確認されていますが、これは筋肉中に微量しか存在しません。
上記の3種類が共通して持つ性質と、各イミダゾールジペプチドが持つ効果について詳しく紹介します。
イミダゾールジペプチド共通の性質
イミダゾールジペプチドには、以下の作用があることが確認されています。
抗酸化作用
前述したように、活性酸素を除去する効果があるため、酸化ストレスの軽減や過酸化脂質を抑える効果があります。
抗酸化および活性酸素の消去機能を持つ(阿部, 2005)。活性酸素は老化促進、ガン発生などをおこすとされるが、神経細胞についての実験があり、バレニンも含めた実験がなされている(Boldyrev et al., 2004)。
財団法人 日本鯨類研究所 鯨研通信 鯨肉に含まれるバレニンについて
カルノシンを摂取したラットでは、筋肉中含量が上昇し、筋肉脂質の過酸化や蛋白の酸化が抑制される。これは生理的環境下におけるカルノシンの生体内での抗酸化性を示している。
九州沖縄農業研究センター周年放牧研究チーム アンセリン,カルノシン
イミダゾールジペプチドは鶏胸肉中に豊富に含まれており,ヒトや動物の骨格筋や脳などに高濃度に存在する5,6)。運動時には組織が酸化傷害を受け,疲労の一因となることが知られているが,イミダゾールジペプチドはそのイミダゾール基により抗酸化作用をもつことが報告されており,過重負荷時の酸化ストレスによって惹起される細胞機能の低下を抑え,細胞の酸化傷害を抑制すると考えられている7,8)。
イミダゾールジペプチド配合飲料の 日常的な作業のなかで疲労を自覚している 健常者に対する継続摂取による有用性
疲労回復効果
マウスにアンセリンやカルノシンを摂取させたところ、持久力が向上したという報告があります。
アンセリンやカルノシンを豊富に含むチキンエキスをマウスに6日間経口投与したところ,遊泳持久力が有意に向上したという報告がある.緩衝能の向上に起因する効果であると考えられている
九州沖縄農業研究センター周年放牧研究チーム アンセリン,カルノシン
人間に対しても、イミダゾールジペプチドを、8週間の間、1日400mg、200mg、0mg(プラセボ)を摂取する3つのグループに分けて疲労の回復効果を測定した実験では、摂取するイミダゾールジペプチドの量が多いほど疲労が軽減することが確認されています。
結果報告の一部を以下に引用します。
主要評価項目である VAS による疲労感の評価で,イミダゾールジペプチド 400 mg 群はプラセボ群と比較して,摂取 2 週間後から摂取 8 週間後まで疲労感の有意な低下がみられ,明確で安定した抗疲労効果が確認された。一方,イミダゾールジペプチド200 mg 群は,摂取 3 週間後,摂取 4 週間後および摂取 6 週間後のみ疲労感の有意な低下がみられ,抗疲労効果はイミダゾールジペプチド 400 mg 群と比較して弱かった。さらにイミダゾールジペプチド400 mg 群では Chalder fatigue scale による疲労感の評価でも,摂取 2 週間後に合計スコアの有意な低下がみられた。
イミダゾールジペプチド配合飲料の 日常的な作業のなかで疲労を自覚している 健常者に対する継続摂取による有用性
他にも様々なテスト項目において、疲労の低下が報告されています。
カルノシン
β-アラニンとL-ヒスチジンから構成されるイミダゾールジペプチドです。
人間も少量のカルノシンを体内に保有しています。
カルノシンには以下のような効果が確認されています。
認知症防止効果
マウスを用いた実験で、記憶能力の低下を防止する効果が確認されています。
実験には、アルツハイマー病原因遺伝子(プレセニリンとアミロイド前駆体蛋白質)を組み込んだ36匹のマウスを用いた。
このマウスを、次の3グループに分け、実験を行った。ⅰ)通常の飼料で飼育したマウス(13匹)
ⅱ)生後4ヶ月から脂肪含量の高い飼料(高脂肪食)を与えることで老人斑の蓄積を早め、認知機能の低下を誘導したマウス(12匹)
ⅲ)高脂肪食投与開始の2週後から、カルノシン(βアラニル-ヒスチジン)を給水ビンに1g/Lの濃度で混ぜ、6週間与え続けたマウス(11匹:実験スケジュールは添付資料をご参照ください)。これら3グループのマウスの記憶機能を、「文脈恐怖条件付け学習評価装置」を用い評価した。その結果、高脂肪食の投与によってアルツハイマーマウスに誘導された記憶機能の低下が、カルノシンを摂取させることで完全に(通常の健康なマウスと同レベルまで)回避されていることが見出された。
東京大学大学院新領域創成科学研究科 体内抗酸化ジペプチドの認知症予防作用発見
金属元素による神経細胞死を防止
アルミニウム、亜鉛、銅、鉄などの体内に存在する金属は、体にとって必要なものですが、場合によっては体に害を与えることがあります。
カルノシンは、このうち亜鉛による神経細胞死を抑制する効果があることが確認されています。
生命分析化学研究室|図書館 附置機関|武蔵野大学[ MUSASHINO UNIVERSITY ]
アンセリン
β-アラニンと、メチル化されたL-ヒスチジンから構成されるイミダゾールジペプチドです。
化学的には β‐アラニル-1-メチル‐L-ヒスチジン と呼ばれます。
血圧・尿酸値の低下作用
アンセリンには、血圧および尿酸値を低下させる作用が確認されているそうです。
中でも、マグロ・カツオ由来のアンセリンに尿酸値降下作用のあることを突き止めたことは、最近の研究成果の一つです。これまでの機能性食品には見られなかった効果だけに、各方面の注目度が高いわけです。
焼津水産化学工業 アンセリンとは|新しい機能性素材アンセリン
バレニン
オフィジンとも呼ばれます。
β‐アラニンに3-メチル-L-ヒスチジンが結合した物質で、化学的には β‐アラニル-3-メチル‐L-ヒスチジン と呼ばれます。
バレニンは鯨に多く含まれています。鯨はバレニンを体内で合成する酵素を持っていることが示唆されています。
バレニンは他のイミダゾールジペプチドに比べ、研究が進んでいません。
これには、捕鯨に対して積極的ではない国や圧力による影響があると考えられています。
以上のように、イミダゾールジペプチドは様々な機能を持っており、特許化もされているが、残念ながらクジラの持つバレニンに直接関わる実験についての情報は少なく、また機能をねらいとした鯨肉やその抽出物の利用は進んでいない。それは、欧米においては鯨肉が手に入らないことおよび日本においてもこの20年近く鯨肉が手に入りにくかったことによると思われる。
財団法人 日本鯨類研究所 鯨研通信 鯨肉に含まれるバレニンについて
おしまい
イミダゾールジペプチドには、上記のように、人間における疲労回復効果が確認されています。
実際に、イミダゾールジペプチドを含むサプリが市販されています。