肉の脂は食べ過ぎると良くないという話や、魚の脂が体や頭に良いという話を聞くことがあるかと思います。
しかし、なぜ同じ脂肪なのに体の中での効果に違いがあるのかは、その化学的な構造や生物学的な理由を知らなければ、なかなか理解しにくいものです。
今回は、できる限り簡単に魚の脂肪と肉の脂肪の違いと体内での働きの違いについて紹介してみたいと思います。
脂肪の固まりやすさの違い
結論から言ってしまえば、魚の脂肪と陸上動物の肉の脂肪では、その固まりやすさ(溶けやすさ)が違います。
魚の脂肪は普通の温度でも液体なのに対して、動物の脂肪は大体が固まって固体となっています。
そのため魚の脂肪のことを「油」(液体の脂肪)、動物の脂肪のことを「脂」(固体の脂肪)と書いたりもします。(液体の油と固体の脂をまとめて油脂と呼びます。)
脂肪の固まりやすさを決めるのは脂肪酸
この脂肪の固まりやすさは、脂肪を構成する成分の一つである「脂肪酸」の違いによるものです。
詳しい化学的は話は省略すると、この脂肪酸が「グリセリン」と呼ばれるものにくっ付いたものが脂肪となります。グリセリンには脂肪酸を3つまでくっつけられます。(グリセリンはグリセロールとも呼ばれます)
健康診断の検査項目でトリグリセライド(中性脂肪)というものを見たことがあるかもしれませんが、これはグリセリンに3つ(トリ)の脂肪酸がくっ付いたものという意味です。
実際のグリセリンは以下の構造です。
これに脂肪酸が3つ結合した中性脂肪は以下のような構造になっています。
この脂肪酸が飽和脂肪酸と呼ばれる固体で溶けにくいものであれば、脂肪も溶けにくくなります。
逆に脂肪酸が、不飽和脂肪酸と呼ばれる液体になるものであれば、脂肪も溶けやすくなります。この2つについては後ほど詳しく紹介します。
食べ物に含まれる脂肪はどうなるか
では、体内での働きの違いを紹介しましょう。
脂肪を含む食べ物を食べると、脂肪は先ほど紹介したグリセリンと脂肪酸に分けられて小腸で吸収されます。(これは膵臓の膵液が行いますが、詳しい話は省略します)
通常は中性脂肪として体に蓄えられ、エネルギーが必要な場面(筋肉中のグリコーゲンが不足するなど)になると、脂肪を分解して脂肪酸を利用してエネルギーを得ます。
エネルギーとして利用できるのは主に脂肪酸で、グリセリンはほとんどエネルギーにできないため無視できます。
脂肪の役割といえば、一般的にはこのエネルギー源としての働きを思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、脂肪から得られる脂肪酸は、エネルギー源として以外にも、無くてはならない働きをしています。
細胞の膜の性質を決めるのは脂肪酸
人体のすべての細胞は細胞膜という膜で包まれています。
この膜を作る成分はリン脂質と呼ばれ、それが脂肪酸を2つ持っています。
それは、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸です。
飽和脂肪酸とは、溶けにくい固体の脂の元になる脂肪酸です。対して、不飽和脂肪酸は魚などに多く含まれる溶けやすい油の元になる脂肪酸です。
リン脂質は以下のような構造をしています。
リン脂質の足のような部分は脂肪酸で、曲がっている足が不飽和脂肪酸です。この足にどの種類の脂肪酸が使われているかで細胞膜の性質が変化します。
この細胞膜を作っているリン脂質が持つ不飽和脂肪酸が柔らかいものであるほど、細胞膜は柔軟性を持ちます。
しかし、この不飽和脂肪酸が溶けにくい硬いものであれば、細胞もまた硬くなります。
筑波大学の講義「2014年度 細胞学概論・1.細胞膜の構造と機能(1.1-1.2)」によれば、細胞膜が柔らかいことよりも、硬いほうが問題があるとされています。(再生時間が25分付近)
飽和脂肪酸は動物や果肉の脂肪に多く含まれます。例えば、バターやショートニング、ヤシ油などに多く含まれています。
動物の脂肪にも不飽和脂肪酸は含まれます。また、体内でも合成されていますが、それはn-9系脂肪酸(オメガ9系脂肪酸)やn-6系脂肪酸(オメガ6系脂肪酸)と呼ばれる比較的固まりやすい不飽和脂肪酸が主です。
具体的には「リノール酸」、「アラキドン酸」などと呼ばれる脂肪酸です。リノール酸はコーン油やサフラワー油、ゴマ油などのサラダ油に含まれる主な脂肪酸です。
これらも液体の脂肪ではあるのですが、過剰に摂取するとリノール酸は体内でアラキドン酸に変換されるため、それが炎症を起こす物質(ホルモン様物質)に変わることが知られています。
もちろん体に必要な脂肪酸ですが、普通の食生活をしているだけでも取りすぎになりやすいです。
日本人のリノール酸摂取量は平均して 13~15g/日くらいです(12g くらいに減ったという人もいます)。必須量は 2g 以下です。
米麦、豆類、肉・卵類にもリノール酸は含まれていますので、これら主材料的なものから 5g/日(必須量の 2 倍以上)摂取します。
したがって、普通に食事をしている人はリノール酸欠乏にはなりません。人類の長い歴史で半世紀前まではリノール酸摂取量は 5~6g/日でした。リノール酸摂りすぎによる害(図 6)が増えている現状から考えて、リノール酸摂取量を 7~8g/日くらいに抑えたいものです。
金城大学 最新の脂質栄養を理解するための基礎
これに対して、魚の油や植物の亜麻仁から取れる油(アマニ油)などに含まれる不飽和脂肪酸はn-3系脂肪酸(オメガ3系脂肪酸)と呼ばれるものです。
これは、「α-リノレン酸」や「ドコサヘキサエン酸(DHA)」、「イコサペンタエン酸(EPA)」と呼ばれる脂肪酸です。
これらは通常のサラダ油などに含まれる不飽和脂肪酸よりもさらに溶けやすい(不飽和度が高い)脂肪酸です。
魚類に含まれるのは主にDHAとEPAです。魚類は冷たい水の中でも生活しなければならないため、固まりにくい油の元となる不飽和脂肪酸を体内に多く持っているのです。
EPAからもアラキドン酸と同じようにホルモン様物質は作られますが、作られにくい上に効力も弱いです。細胞に柔軟性を与え、その他にも血栓などを予防する効果が研究により確認されています。
食べる脂肪の種類によって、体の細胞を構成する脂肪酸の種類が変わり、それによって細胞の性質が変化するというわけです。
大事なのは脂肪酸の摂取バランス
現在の食生活は、バターやショートニングを使った食べ物から動物由来の脂肪を知らず知らずのうちに多くとってしまいます。
スーパーの惣菜やお弁当には、揚げ物系が多く入っているものがありますが、サラダ油はn-6系脂肪酸が多いため、リノール酸の過剰摂取につながります。
したがって、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランスを取れるように、魚の油に含まれる脂肪酸であるDHAやEPAを摂取することが重要になります。
DHAがなぜ脳に良いと言われるかといえば、脳の神経細胞の細胞膜を構成するのがDHAだからです。目の神経にもDHAは関わっています。
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