運動によって気分を良くできる理由 – 筋肉や脳内で分泌される物質

最終更新日時 : 2017年8月1日
ウォーキングマシンでジョギングをする女性

運動は、体に様々な良い影響を及ぼすことがわかっています。

疫学研究によると、習慣的な運動は種々のガンの発症リスクを減らします。また、アルツハイマー病の発症を減らし(脳)、インスリン分泌能を高め(膵臓)、免役能を高め(血球系)、代謝機能を亢進(筋・脂肪・肝・心臓)させます。
首都大学東京 人間健康科学研究科 ヘルスプロモーションサイエンス学域 運動分子生物学研究室

逆に、体を動かさないと、肉体の健康ばかりでなく精神の健康を損ねてしまうことがわかってきています。

なぜ運動することによって前向きになったり気分が軽くなったりといった精神面に影響が起きるのかを調べてみました。

今回は以下の書籍を参考にさせていただいています。タイトルに「大腰筋」と入っていますが、それ以外の筋肉の話や脳と筋肉の関係などを含む網羅的な内容の書籍です。

寝たきり老人になりたくないなら大腰筋を鍛えなさい

運動によって気分が良くなるという事実

まず、実際に運動によって精神面に良い影響があるという結果を示した実験を紹介します。ジョギングを行う前と後で感情にどういう影響があるかを調べた研究です。

図1は、女子大学生を対象に、15分間の適度な運動(心拍数130拍/分でのジョギング)前・後に、快・不快の感情(それぞれ覚醒と弛緩とに分けてある)を示すチェック・リストを実施したものである(岡村,1977)。結果は、気がめいる、ゆううつな、といった不快感情は著しく減少し、逆にすっきりして、爽やかな、などの快感情の著しい増加がみられた。これらは適度な負荷条件下で、身体運動を行うことにより、身体が活性化され、覚醒的な快感情が高まり、弛緩した不快感情が低下した事実を示している
ジョギングによる気分の変化のグラフ
運動の心理的効果 -運動習慣形成のために-

ジョギング後は「気が滅入る」「憂鬱」などの気分を報告する被験者が大幅に減少して「気分爽快」「すっきり」「さわやか」といった前向きな気分の報告が増加していることがわかります。「だるい」があまり下がっていないのは、運動によって肉体的疲労は増加しているからだと考えられます。

また、長期間にわたる実験では、以下の様な結果が得られています。

図2は、外的基準に基づく運動の強度ではなく、自己爽快ペースでのウォーキングを8週間継続した時の気分の改善状態を示したものである(三谷等,2004)。
明らかに活動性は高まり、漠然とした心身の疲労感は低下することが示された。また、客観的な指標として脳波の記録も行ったところ、右前頭部を中心にα波の増加を見いだすことができた。
右前頭部は感情的変化を反映し、覚醒快感情の表れということができる。
運動による疲労感と活動量の変化
運動の心理的効果 -運動習慣形成のために-

グラフを見ると、どの週でも安静状態よりも活動量が増加し、疲労感が低下していることがわかります(0が安静時)。特に長く続けるほどその効果は大きくなる傾向にあります。

同文献によると、日常の些細なことに思い悩んでなかなか決心がつかない「特性不安」や、心配で何も手につかないことや緊張感で震えるなどの「状況不安」に対しても、運動が改善効果を示しているそうです。

筋肉は脳から命令されるだけではない

かつて筋肉は、脳から一方的に命令され、体を動かすためだけに必要な組織だと考えられていました。しかし、近年の研究結果から、逆に筋肉から脳に命令を出すことができるということがわかってきました。

具体的には、筋肉の収縮によって化学物質が分泌されます。それが脳に様々な影響を及ぼすようです。

脳由来神経栄養因子 BDNF

筋肉を動かすことで分泌される化学物質として、近年注目を浴びているのがBDNFBrain Derived Neurotrophic Factor)と呼ばれるものです。

これは、神経細胞を作ったり再生したり、脳内ネットワークを形成するシナプスを作ったりする効果があるタンパク質の一種です。

このBDNFが増えると、短期記憶を司る脳の部位である海馬が大きくなることが判明しています。また、うつ病やアルツハイマー病などの脳に関わる疾患の多くで、BDNFの低下が関係していることもわかっています。

このように、筋肉を使うことによって脳に影響を及ぼす効果が実際にあることがわかっています。

筋肉由来内分泌因子 マイオカイン

このような筋肉収縮によって分泌される物質はマイオカイン(筋肉由来内分泌因子)と呼ばれ、30種類ほどが確認されているそうです。

骨格筋から分泌される種々の生理活性物質は,総称してマイオカイン(myo=筋,kine=作動物質)と呼ばれる.これらのことは,骨格筋が分泌器官として重要な役割を果たしており,筋収縮によるマイオカインの分泌増加や,運動トレーニングによる筋量の増加が,生体の恒常性維持に貢献している可能性を示す.
骨格筋と脂肪組織にかかわる最近の話題 ホルモン Irisinと白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞化 山下敦史 亀井康富 京都府立大学

運動でストレスホルモンが減少する

運動前と運動後で血液中のストレスホルモン濃度を計測すると、運動後の方が明らかにストレスホルモンが下がっているという実験結果があります。

実際に自律神経失調症などの心の病気に対して行われる運動療法に効果があることからも、運動をすることによる精神的ストレスの減少効果があると言えると思います。

But even a 20-minute walk, run, swim or dance session in the midst of a stressful time can give an immediate effect that can last for several hours.
(日本語訳)
ストレスが溜まることの最中(仕事の休憩時間など)に行う20分程度のウォーキングやスイミング、ダンスでも、数時間続く即効性のある抗ストレス効果が得られる。
Five tips to help manage stress

脳内伝達物質が分泌され気分をよくする

運動によって増加する脳内神経伝達物質などが、鬱々とした気分を明るくするという研究結果が得られています。

繰り返し運動によってセロトニンが分泌されることは有名ですが、このセロトニンが抗うつ効果を持っていることがわかってきています。

セロトニンは動物の情動や記憶に関わる脳内の神経伝達物質の1つで、うつ病などの精神疾患に関わっていると考えられています。一方、セロトニンは運動によって脳で増加することが知られていますが、セロトニンがどの様に働いているのか分かっていませんでした。 そこで、セロトニンの受容体に着目し、マウスを用いて運動が脳にもたらす変化の仕組みの解明に挑みました。セロトニン受容体を欠損したマウスを用いて、運動後に海馬の神経細胞とマウスの抑うつ行動を解析した結果、セロトニン3受容体が、運動のもたらす抗うつ効果や海馬の神経細胞の新生に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
運動がうつ病予防・改善に役立つメカニズムを解明

他にも、20分ジョギングを続けるとエンドルフィン(βエンドルフィン)が、1時間以上のウォーキングでドーパミンが分泌されます。

これらは、いわゆる「ランナーズハイ」「ウォーキングハイ」の原因となる脳内物質です。この脳内物質は高揚感や陶酔感、行動意欲などを引き起こす効果があり、前向きな気持ちにしてくれます。

エンドルフィンには痛みを感じにくくしたり、免疫力を高めてくれる効果などもあります。一説によれば、モルヒネの数倍の鎮痛効果があると言われています。

ドーパミンは神経伝達物質の一つであり、意欲を作るホルモンと言われています。認知症患者は脳内のドーパミンの量が少なくなっていることがわかっています。ドーパミンが分泌されるまでは長時間運動が必要ですが「やる気が出ない」というときは思い切って長く走ってみるのもいいかもしれません。

追記

2015年の研究によれば、ランナーズハイを起こす本当の物質はβエンドルフィンではなくカンナビノイド系である可能性が指摘されています。

詳細は下記サイトを御覧ください。

東京大学教養学部 第83回 ランナーズハイ

参考

首都大学東京 人間健康科学研究科 ヘルスプロモーションサイエンス学域 運動分子生物学研究室 骨格筋から分泌される生活性因子(マイオカイン)の探索

BDNF(脳由来神経栄養因子)は多くの精神疾患の発症に関わっている

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