コレステロールには2つの種類(悪玉コレステロールと善玉コレステロール)があり、悪玉コレステロールを減らすのが健康に良いと紹介されることがあります。
しかし、コレステロールは体に必要な物質の合成の原料となります。さらに、コレステロールは通常、体内で増えすぎないように調節が働いています。
かつては、食事によるコレステロールの摂取は良くないことと考えられていましたが、今その方針は見直されています。
米国政府は2015年、「食事中のコレステロール量と血中コレステロール値に関連性は乏しく、コレステロールの摂取を制限する必要はない」と表明しました。厚生労働省も同年、5年ぶりに改定した「日本人の食事摂取基準」で、摂取コレステロールの目標値を撤廃しました。
厚労省は「コレステロール摂取量を制限するとたんぱく質不足を生じ、特に高齢者において低栄養を生じる可能性がある」と指摘しています。コレステロールが多いと悪者扱いを受けてきた鶏卵も、その評価が見直されています。
中央公論新社 中川恵一 知れば怖くない 本当のがんの話 (2017/1/15)![]()
今回はこのコレステロールについて、身体の中でどのような働きをする物質なのかを紹介します。
コレステロールとは
体内で合成される固体の脂質で、ホルモン(ステロイドホルモン)の生成や細胞膜の構成に必要な有機化合物です。見た目は薄黄色い固体です。
コレステロールの代表的な働きは以下のようなものです。
- 細胞膜の生成
- 肝臓での胆汁酸の生成
- ステロイドホルモンの生成(性ホルモン、副腎皮質ホルモンなど)
- ビタミンDの原料
コレステロールは体内で重要な役割を果たしており、例えば、身体を構成している細胞の膜の必須成分であり、性ホルモンやステロイドホルモンの材料として、また、その分解産物の胆汁酸は脂肪の消化吸収にはなくてはならないものである。
静岡県立大学 食品栄養科学部 タウリン(4)|新聞|食と健康Express
コレステロールは真核生物の生体膜の構成成分の1つとして膜の流動性を調節する役割以外に、ステロイドホルモン,ビタミンD,胆汁酸などの生合成原料として重要な化合物である。コレステロールの生合成は,ホルモンや血中のコレステロール濃度で調節されている。
福岡大学 理学部 機能生物化学研究室 コレステロールの合成
コレステロールの種類は1つだけ
コレステロールは「悪玉」「善玉」と区別される事がありますが、これはコレステロール自体の種類が異なるわけではなく、コレステロールを包んでいるリポタンパクと呼ばれるタンパク質の違いによるものです。
コレステロール自体は皆同じで、善玉も悪玉もありませんが、組み込まれるリポタンパクにより違いが出てきて、善玉と悪玉に区別されます。
コレステロール | 善玉と悪玉ってどう違うの? : 原因・予防 – セルフドクターネット
コレステロールは脂肪ですので水に溶けません。したがって、そのままでは血液で運ぶことができません。
そこで、水に溶けやすいものでコレステロールを覆うことで血液中でも運べるようにします。このコレステロールを覆うためのタンパク質がリポタンパクです。
コレステロールを運ぶリポタンパクには以下の種類があります。
LDL(低比重リポタンパク: Low Density Lipoprotein)
いわゆる悪玉コレステロールです。肝臓から末梢組織にコレステロールを運ぶ働きがあります。
HDL(高比重リポタンパク: High Density Lipoprotein)
いわゆる善玉コレステロールです。
末梢組織から肝臓へコレステロールを運ぶ働きがあります。
VLDL(超低比重リポタンパク: Very Low Density Lipoprotein)
分離してLDLになります。つまり、
- 悪玉コレステロール = LDLによって包まれたコレステロール
- 善玉コレステロール = HDLによって包まれたコレステロール
ということです。
より詳しいリポタンパクの説明は リポタンパク質 – 健康用語事典 をご覧ください。
LDLとHDLが含むコレステロール自体は全く同じものです。
LDLは、肝臓で作られたコレステロールを体の様々な部位に届ける役割を持っています。一方、HDLは各部位で余ったコレステロールを回収する役割を持ちます。
悪玉、善玉と呼ばれる理由
なぜLDLが悪玉で、HDLが善玉と呼ばれるのかというと、そもそもコレステロールは体に悪いものであり、LDLは全身にそのコレステロールを増やし、HDLはそれを減らしてくれるものと考えられたためです。
しかし、近年の研究でコレステロールは決して悪いだけのものではなく、体に必要なものであるということがわかっています。
なぜコレステロールが悪いものとされたかというと、草食動物が本来食べないコレステロールを多量に含むものを食べさせる実験によるものと言われています。
そもそも、コレステロールが悪者のように言われるようになったのには、ある説がある。
1913年、ロシアの病理学者ニコライ・アニチコワがウサギにコレステロールを与えた実験を行い、大動脈にコレステロールが付着して動脈硬化が起こったことから、コレステロールが動脈硬化の原因であるとして発表した。
しかし、その後の研究で、ウサギは草食動物であり、普段はコレステロールなどまったく摂取しない動物であるため、ウサギにコレステロールを投与した場合、そのまま反映されて血中コレステロールが急上昇してしまうことが分かった。
一方、人間は普段から肉などを食べることでコレステロールを摂取しており、その量に応じて体内で合成する量を調節し、コレステロール値を一定に保つ仕組みができているため、ウサギの実験がそのまま当てはまるわけではないのだ。
コレステロールの話 | もっと知りたいたまごの話 | 那須ファーム
コレステロール量は体内で調節される
コレステロールは体内でも合成されていますが、食品から摂取することもできます。そのため、食品から多くコレステロールを摂取すると、余計なコレステロールが増えてしまうのではと考えてしまいます。
実は、コレステロールの量が減りすぎたり増えすぎたりするのを防ぐための仕組みが体内には存在しています。
体内でのコレステロールの合成過程は複雑ですが、簡単化すると HMG-CoA から メバロン酸 となり、それがコレステロールに変化します。
HMG-CoA を メバロン酸 に変化させる反応は HMG-CoA還元酵素 と呼ばれる酵素の働きによるものです。
体は、食品で十分なコレステロールが得られている場合、HMG-CoA還元酵素 の働きを抑えることでコレステロール合成量を減少させます。逆にコレステロールが少なくなれば、 HMG-CoA還元酵素 の働きを元に戻して合成量を増やします。
コレステロールができ過ぎると、いくつかのメカニズムでHMG-CoA還元酵素の反応が進行しなくなります。ひとつは、コレステロールによりHMG-CoA還元酵素の遺伝子の発現が抑制されること。もうひとつは、コレステロールがHMG-CoA還元酵素の分解を促進することです。このようにして、コレステロールは、自分自身の合成に関与するHMG-CoA還元酵素をブロックしてしまいます。このブロックがうまくいってコレステロールの量が低下すると、今度はHMG-CoA還元酵素のブロックは解除されて、コレステロールは再び合成され始めます。
もうおわかりのように、コレステロールは、多過ぎればその合成は停止し、少な過ぎればたくさんつくられるのです。
くすりをつくる研究者の仕事: 薬のタネ探しから私たちに届くまで![]()
このような仕組みによって、体内のコレステロール量は一定になるように調節されています。
この調節がうまくいかなくなった病気を脂質異常症と呼びます。
コレステロールを多く含む食品
コレステロールは体内で調節されるとはいえ、異常に摂りすぎることは危険です。コレステロールを多く含む食品を知っておくことは、摂りすぎ防止につながると思います。
参考: コレステロールの多い食品と含有量一覧表 | 簡単!栄養andカロリー計算
卵類
コレステロールが多いとよく言われるのは卵類です。いくらや筋子、ピータン(アヒルの卵)はコレステロールが高いようです。
しかし、鶏卵の場合は一緒に含まれている他の栄養素がコレステロール値の上昇を抑えると言われています。
●たまごを食べても、悪玉コレステロールを増やす心配はありません。卵黄に含まれるレシチンというリン脂質は、コレステロールの体内での蓄積を抑え、悪玉コレステロール値を低下させる働きがあるのです。
●さらにたまごには、悪玉コレステロール値を低下させるオレイン酸という脂肪酸も含まれています。
●レシチンやオレイン酸は、悪玉コレステロール値を低下させるだけでなく、善玉コレステロール値を増やしてくれる働きもあります。
日本養鶏協会
2006年11月、厚生労働省研究班(主任研究者・津金昌一郎・国立がんセンター予防研究部長)は、「たまごをほぼ毎日食べる人」と、「週に1~2日しか食べない人」を比較すると、「血中コレステロール値や心筋梗塞の危険性は変わらない」という疫学調査を発表しました。
この調査は、1990年から10年間、全国10府県の40歳から60歳の男女約10万人の生活習慣病を追跡したという信頼できる大規模なものです。
そのうち、「たまごを食べる回数とコレステロール値、心筋梗塞の発症率に関連性はない」という調査結果がでました。
日本養鶏協会
いか
するめや焼きイカはコレステロールが多めです。
肉類
豚肉や牛肉もコレステロールを含みます。
お菓子類
エクレアやシュークリームは多めのようです。
おしまい
いまだに「悪玉」「善玉」と呼ぶのはいかがなものかと思いますが、すでに定着してしまった以上仕方がないことなのかも知れません。
とはいえ、コレステロールの取らなすぎも良くないことですので、過剰に悪いものというイメージを植え付けるのは問題がある気がします。
2 件のトラックバック