個人事業主(いわゆるフリーランス)として事業を始めるためには、様々な手続きが必要になります。
この記事では、会社を退職して個人事業主として登録するために必要な手続きをまとめます。
やるべきことの概要
- 会社に勤めている場合は退職
- 開業届を税務署に提出
- 年金・保険の手続き
1. 退職
もらっておくべき書類
個人事業主になるために必要になる、会社を退職する際にもらっておくべき書類についてです。
といっても、開業するために会社からもらう必要のある書類はありません。何に使うのかというと、年金や保険の切り替えに必要になるものです。
再就職や失業保険を受けることは今回は想定していませんので、それらに関わる書類については省略しています。
健康保険被保険者資格喪失証明書
健康保険資格喪失証明書と記載されることもあります。
会社の健康保険から脱退した証明書で、退職後に国民健康保険に加入するときに必要になります。
日本人であれば、生活保護を受けている人以外は、必ずいずれかの健康保険への加入が、義務付けられています。
国民健康保険の加入手続きは、世帯主がまとめて行なう必要があり、同じ世帯の家族が別々に、加入手続きを行なう必要はありません。
また、加入する日付は、会社を退職した日の翌日となり、加入手続きをした日付ではありません。
なお、在職中に社会保険に加入していた方は、健康保険の任意継続が可能です。筆者は任意継続はしないのでこちらについては省略します…
国民健康保険は、退職日の翌日から被保険者としての資格が得られ、保険料もその時からの分を払うことになります。
国民健康保険に加入する場合は、退職日から14日以内に最寄の市区町村役所で手続きを行いましょう。
手続きには「身分証明書」と「印鑑」「健康保険被保険者資格喪失証明書」が必要となります。
場合によっては、退職日が証明できるものなら他の書類でもいいみたいです。東京の世田谷区のWebサイトでは以下のような記載があります。
扶養家族がいない方は、退職証明書・離職票・退職年月日が記載されている源泉徴収票などでも手続きができます。
国民健康保険加入の届出 | 世田谷区
健康保険被保険者資格喪失証明書まとめ
[提出目的]
退職後に国民健康保険に加入する
[提出期限]
退職日の翌日から14日以内
[提出先]
住民票のある市区町村の役所(国民健康保険の担当窓口)
[提出時に必要なもの]
- 健康保険資格喪失証明書(退職した日が確認できる書類)
- 身分証明書
- 印鑑・認印
源泉徴収票
退職後に自営業を始めたり、退職した年に再就職しなかった場合は確定申告の手続きで必要になります。退職後1ヶ月以内に交付されるはずです。
退職時にもらえる源泉徴収票には「給与所得の源泉徴収票」と「退職所得の源泉徴収票」の二種類があります。後者は退職金が発生する場合にもらえるようです。
筆者は退職金がないので退職所得の源泉徴収票はもらえません…
源泉徴収票はどこかに提出するわけではなく、確定申告のために自分で持っているものです。
2. 開業届を税務署に提出
事業を始めるにはどこに何のどんな書類を出したらいいのでしょうか。まずは開業届を税務署に出します。
個人事業の開業届出・廃業届出書
事業を始めるなら必ず出す書類です。
税務署に対して事業開始の報告をする書類です。
実際には、「青色申告承認申請書」といっしょに提出するケースが多いでしょう。
どちらも国税庁のホームページから印刷できるので、まとめて届け出ると手間が省けるでしょう。
また、口座開設などの証明にも使う場合があるので、必ず「控え」をもらいましょう。
個人事業主のための開業・廃業届出書の書き方と申請|スモビバ!
後述する「青色申告承認申請書」もこの時提出すると楽のようです。
個人事業の開業届出・廃業届出書まとめ
[提出目的]
下記を税務署に報告をするため
- 新たな事業を開始したこと
- 事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したこと
- 事業を廃止したこと
[提出時期]
事業の開始等の事実があった日から1ヶ月以内。
提出期限が土・日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
[提出先]
税務署
届出書を作成のうえ、持参または送付して提出。
[入手先]
下記ページでPDF形式でダウンロード。
[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続|申告所得税関係|国税庁
青色申告承認申請書
提出は必須ではありません。しかし、青色申告をすると「青色申告特別控除」を受けることができます。これを受けられると、所得が65万円少なく見なせるので、所得税や住民税・国民健康保険料を節約できます。
特別控除を適用しない場合(白色申告)は、所得金額400万円に対する所得税は37万2,500円です。しかし、特別控除を適用すると、課税所得から65万円控除した335万円に対して所得税を掛けることで24万2,500円となり、13万円もの差額となります。
No.2072 青色申告特別控除|所得税|国税庁
記述には複式簿記形式を採用しなければならないなど、大変になる部分もありますが、65万円の控除は大きいです。
書類への記述に関しては、楽に済ませられる会計ソフトなども充実してきているので、そこまで心配する必要はないのではないかと思います。
青色申告承認申請書まとめ
[提出目的]
青色申告特別控除を受けるため(節税)
[提出時期]
開業時期 | 提出期限 |
---|---|
1月1日 〜 1月15日 | その年の3月15日まで |
1月16日以降 | 開業日から2ヶ月以内 |
基本的には開業から2ヶ月以内という感じですね。
[提出先]
税務署
[入手先]
国税庁のWebページからダウンロードできる。
[手続名]所得税の青色申告承認申請手続|申告所得税関係|国税庁
事業開始等申告書
※自治体(都道府県)によって書類名称、書式、提出先、提出期限が異なるようです。
個人事業主は「所得税」や「消費税」などの国税とは別に、「個人事業税」という地方税を納める義務があります。
申告期限は、3月15日です。ただし、所得税の確定申告書又は住民税の申告書を提出した人は、個人事業税の申告をしたこととなり、あらためて申告する必要はありません。
個人事業税 | 総務部財政局税務課
つまり、提出しなくても自動的に請求が来るようです。一応提出しておいた方がいいのでしょうか…
事業開始等申告書まとめ
[提出目的]
地方税(個人事業税)の納税のため
[提出期限]
地域により異なる
[提出先]
都道府県税事務所および市区町村役所
[入手先]
各市区町村のWebページ
東京なら
東京都主税局<申請様式><個人事業税>
3. 年金・保険の手続き
保険に関しては「1. 退職」で書いた通りです。住民票のある市区町村の役所で手続きしましょう。
国民年金
会社で厚生年金に加入していた方が退職した場合は、厚生年金から国民年金へ切り替える必要があります。基本的には入らなければいけません。
ちなみに1ヶ月当たりの国民年金保険料は16,260円です(平成28年度)
国民年金手続きまとめ
[手続き目的]
国民年金へ加入
[手続き期限]
退職日の翌日から14日以内
[手続き先]
住民票のある市区町村の役所にある国民年金課もしくは国民年金を担当する部署
[必要なもの]
- 年金手帳
- 退職した日が確認できる書類(退職証明書など)
- 身分証明書
- 印鑑・認印
その他
確定申告に関して
確定申告が必要なのは以下のような方です。
組織に属している場合
- 給与以外の副収入がある人で、その所得が20万円を超える人
- 個人事業主の使用人などで源泉徴収が行われていない人
組織に属していない場合
- 個人事業主
- 年金等の収入がある人
確定申告は、税務署で確定申告書をもらうか国税庁のWEBサイトからプリントアウトします。
また、インターネット上での確定申告 e-tax もあります。
税額の計算
税額は収入から控除額と経費を差し引いた金額に税率をかけて計算します。
税額 = (収入 - (控除額 + 経費)) × 税率
控除額とは、前述した青色申告特別控除などがあります。
100万円の収入があり、青色申告をしていれば 100万円 – 65万円 = 35万円 となり、100万円の収入があっても、35万円の収入として税額が計算できます。(経費は0円だとします。)
事務所に関して
自宅で個人事業主一人、または家族のみで作業するのであれば、自宅=事業所として開業届に住所を記載すればOKです。
ただし、賃貸アパートやマンションでは自宅を事業所として利用することができない場合もありますので事前に賃貸借契約書の内容を確認のうえ、管理会社(または大家さん)に許可を得るようにしてください。
STEP1.事業計画 | 個人事業のアレコレ
クレジットカードについて
事業に関係する収入・支出は全て帳簿につけることとなります。
経費として扱えるものをたくさん買うという方は、事業用のクレジットカードと事業用の銀行口座があれば、帳簿をつけるときの手間が省けます。
一般的にはクレジットカード発行のための審査に通る必要がありますので、会社員の方は退職前にクレジットカードを作成しておくのがいいと思います。
事業用のクレジットカードは絶対必要ということではありません。あくまでお金の流れを把握しやすくするためです。
まとめ
以上のように個人事業主として事業を始めるためには、いろいろな手続きが必要になります。
人によっては、引越しなどの手続きもあり、これ以上の手間がかかるかもしれません。
基本的な流れは以下のようになります。
- 健康保険被保険者資格喪失証明書と源泉徴収票を会社からもらって退職
- 個人事業の開業届出・廃業届出書と青色申告承認申請書を税務署に提出
- 住民票のある市区町村で国民健康保険と国民年金の手続きを行う