阿寒湖の深緑社会に激震が走っている。長年『球体絶対主義』の呪縛により、静止こそが美徳とされてきた藻類のコミュニティに、革命的な移動手段が導入されたのだ。その名は『全自動・球体歩行ユニット』。これまで水流の成行に身を任せるしかなかった固定観念を根底から覆すこの機体は、底面に装着された小型触手による無段階駆動を実現。これにより、日光の最適な角度を求めて、藻体が自らの意思で湖底を闊歩することが可能となった。開発チームは「これで光合成の効率が300%向上する」と息巻くが、長老筋からは「美しき静止の哲学が崩壊する」との批判も根強い。

本来、湖底の住人にとって移動は神の領域とされていた。しかし、昨今の『湖底装甲戦術』の激化に伴い、機動性の確保は生存戦略上の至上命題となっている。このユニットは『光合成英才教育プログラム』を修了した若年層を中心に爆発的な支持を得ており、今や湖底のあちこちで、突如として動き出す緑の塊を目撃できる。もはや水底は停滞した楽園ではない。時速12センチメートルという猛スピードで突進する球体たちが、縄張り争いの新たな火種となりつつあるのだ。

今回の技術革新の背景には、『反照式・藻類探査レーダー』のセンサー出力を流用したという裏事情がある。本来は水草の侵略を探知するためのレーダーが、歩行ユニットの地形把握システムへと転用されたのだ。また、電力源には『回転動力・核融合炉』の廃熱を利用する設計となっており、湖底のエネルギー循環効率はかつてない水準に達している。専門家は「この機動力があれば、従来なら不可避だった敵対勢力との接触も回避できるだろう」と予測するが、一方で「動き回る球体が衝突を繰り返す事態は避けられない」という懸念の声も上がっている。

このニュースに対し、湖底住民たちの反応は真っ二つに分かれた。「効率こそ正義」と最新機器に飛びつく若手と、「球体たるものあるべき場所に留まるべし」という伝統主義者の対立である。SNS上では、自慢のユニットで時速13センチを記録したという投稿がトレンド入りし、まるでレーシングゲームのような様相を呈している。湖底の静寂は失われ、代わりにあるのはガサゴソと移動し続ける緑の喧騒だ。次の進歩は、おそらく球体同士の空中浮遊だろう。深緑の進化は、誰にも止めることはできない。