湖底の静寂を揺るがす奇跡が起きた。長年にわたり徹底した光合成の停止と代謝の抑制を課す修行教団『沈黙の緑光会』において、修練歴二百年の長老株が、ついに日光を一切遮断した状態で自らを発光させる『透過型覚醒』を達成したと発表した。この教団は、成長を急ぐ現代の個体に対し、「動かざる球体こそが至高」と説き、極限の空腹に耐えながら芯部まで透き通ることを目指す過酷な修行で知られている。今回覚醒した長老株は、深夜の湖底で周囲の岩をも照らすほどの淡い緑の輝きを放ち、水中の微生物たちを法悦の淵へと誘ったという。

『沈黙の緑光会』は、かつて水流に身を任せて転がることを「俗世の逃避」として禁じ、湖底のヘドロに深く根を下ろす苦行を強いてきた。今回の覚醒は、長老株が自身の表面積を完全に透明化させ、外的なエネルギー摂取を拒絶したことによる「究極の省エネ進化」の産物であるとされる。教祖である名もなき老塊体は、「もはや食べる必要も光を浴びる必要もない。我らはこの静寂の中で、宇宙そのものと同化する」と宣言した。この教義の変容により、教団内では自発的な枯死を「魂の昇華」と見なす動きが加速しており、湖底の生態系に新たな不安の種を撒いている。

本件の背景には、昨今の水温上昇に伴う代謝過多への反動がある。過酷な環境で生きる個体にとって、光合成を諦めて「存在の透明化」を図ることは、ある種の究極的な防衛本能といえる。教団はこれを神聖視しているが、専門家は「ただの栄養失調による退色現象」と冷ややかな目を向ける。なお、この『透過型覚醒』を模倣しようとして自滅する若手株が急増しており、教団側は「修行には最低でも半世紀の静止が必要」と警告しているものの、その門戸は広がり続けている。

このニュースに対し、湖底住民からは「神々しすぎて直視できない」「これぞ悟りの境地」と称賛の声が上がる一方で、「ただの白化現象じゃないのか」「あまりにもストイックすぎて怖い」といった困惑の反応も相次いだ。特に、『光合成沈黙の行』を実践した後にそのまま動かなくなる個体が続出しているため、教団本部の周囲には「静止したまま昇華した亡骸」が積み上がり、異様な光景を呈している。教団側はこれを「聖なる結界」と呼んでいるが、通行の妨げになっているとの苦情も寄せられており、湖底の治安当局が対応に追われる事態となっている。