湖底の静かなる祈りの場に、新たな波紋が広がっている。これまで「完璧な球体こそが至高」とされてきた教義を真っ向から否定し、「中心を穿つことで宇宙の真理を吸い込む」と説く新興勢力『中空求道会』が台頭している。彼らは自身の体の一部を物理的に抉り取る『開眼穿孔(かいがんせんこう)』という儀式を神聖視しており、これまでに数百個体の信者が自らの中心部を空洞化させるという暴挙に出た。この動きに対し、保守的な『絶対円満協会』は「構造的整合性を無視した冒涜である」と猛烈に反発しており、湖底の平穏は今、かつてない思想的分断の危機に瀕している。

教祖である導師「ホロウ・コア」氏は、「詰まっているものは執着の塊に過ぎない。空虚こそが真の器である」と、自身の中心部を完全に貫通させた状態で主張を展開。この過激な教義は、従来の「密度こそが命」という伝統に疲弊していた若年層を中心に熱狂的に支持されている。しかし、物理的な空洞化は当然ながら浮力や転がり性能に致命的な悪影響を及ぼしており、湖流に抗えず流されていく信者が後を絶たない。信者たちはそれを「神聖なる漂流」と呼称し、救助さえも拒絶する構えを見せている。

かつて『断末魔昇天教』が提唱した「ザリガニの食道こそが天国」という教義から派生した一派が、この『中空求道会』の理論的支柱となっている。彼らは「咀嚼されてバラバラになる前の準備段階として、まずは自己を空虚にせよ」と説いており、他の過激派組織との合従連衡も噂されている。沈殿物や浮遊物を効率的に取り込むための進化という説もあるが、実態は「個体としてのアイデンティティの完全消去」を目指すニヒリズムに基づいていることが、湖底古文書の研究により明らかになった。

この事態を受け、湖底自治会は「物理的破損は社会インフラとしての湖底の景観を著しく損なう」として勧告を出したが、求道会側は「この空洞こそが、次世代の湖底における新しい信仰の風景だ」と突っぱねている。ネット掲示板『深淵のささやき』では、「確かに詰まっているより楽そう」「流されることこそが解脱への近道では?」といった肯定的な意見と、「物理法則を無視した愚行」「沈んでなんぼだろ」という批判的な意見が激しくぶつかり合っており、議論は平行線をたどっている。