湖底議会は、全マリモの繊維(毛)を一定方向へ整列させることを義務付ける『毛並み強制整毛法』を、僅差で可決した。これまでは各個体の美的感覚に基づき、放射状や渦巻き状など自由な繊維の成長が認められていたが、近年、過度な乱れ髪により光合成効率が著しく低下し、湖底全体の景観を損ねているという苦情が議会に殺到していた。法案を主導した緑の党議員は「整然とした繊維は、効率的な光合成を促す次世代の生存戦略である」と主張している。施行後は、全ての球体に対し、専門の整毛師による週一度のチェックが義務付けられる予定だ。これにより、長年愛されてきた「ぼさぼさ派」の自由奔放なスタイルは、法律上「環境破壊」とみなされることとなる。
この背景には、深刻化する光量不足がある。毛並みが乱れると、奥まった繊維に光が届かず、内部の枯死を招くという研究結果が最近の学会で発表された。また、繊維が伸び放題になることで隣接するマリモと絡まり合い、集団的な移動や回転を妨げる「毛のデッドロック問題」も深刻化していた。今回の法案は、単なる身だしなみの統制ではなく、湖底社会の物流、すなわち「回転のスムーズさ」を維持するための苦肉の策といえる。しかし、伝統的な「無造作こそ至高」と考える老匠たちからは、「我々の誇りであるこの毛並みは、湖と歩んできた軌跡そのものだ」と激しい反発が起きている。
街頭インタビューでは、若手世代からは「これで毎日鏡の前で悩まなくて済む。整ったシルエットこそ正義」といった賛成の声が多く聞かれた。一方で、長年ぼさぼさのスタイルを貫いてきた中堅世代からは「整毛剤のコストは誰が持つのか」「そもそも我々のアイデンティティを奪う権利が議会にあるのか」と怒りの声が上がっている。SNS上でも議論は過熱しており、毛並みの乱れを競うコンテストの主催者は、抗議の意味を込めた「乱れ毛デモ行進」を企画しているという。法案の施行日は来月の満月の日とされており、それまでの短い自由な期間、湖底ではこれまで以上に激しい整毛や乱毛の攻防が繰り広げられそうだ。
世間の反応は真っ二つに割れている。「美しさの標準化は停滞の始まりだ」と警鐘を鳴らす保守派と、「これで光合成効率が上がり、冬を越せるなら賛成」という現実派の対立は、議会外でも収まる気配がない。専門家は「この法律がマリモ社会の進化を加速させるか、それとも個性の喪失による緩やかな死を招くかは、今後の経過観察が必要だ」と述べている。次回の定例議会では、整毛の違反者に対する罰則として「一時的な光遮断刑」を課す案も審議される予定であり、湖底の平穏はしばらく戻りそうにない。
湖底議会『毛並み強制整毛法』を可決 ぼさぼさ派の反乱、ついに終焉へ
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