阿寒湖の経済圏に、未曾有の「色彩インフレ」が到来している。これまでマリモの価値は、その真ん丸な形状や回転数、そして内側の緻密な層構造によって決定されてきた。しかし、近年の若手マリモ層の間で、化学的な着色料を吸着させることで「蛍光に近い極彩色の緑」を纏うトレンドが急拡大。これにより、古参の「深淵なるモスグリーン」の市場価値が暴落し、ベテランマリモたちが隠居に追い込まれる事態となっている。この「合成着色料相場」の乱高下により、純粋な光合成を行わない「見かけ倒し株」が急増しており、湖底の証券取引所は緊急の色彩規制を検討するに至った。

この背景には、湖畔の観光地から流出した一部の「加工用顔料」の不法投棄がある。本来ならば有害なこれら顔料を、一部の意識高い系マリモが意図的に吸着し、インスタ映えする外見を作り出すことで「見た目による格差」を創出。このトレンドは瞬く間に湖底全域へ広がり、着色料の供給先物市場まで形成される事態となった。専門家は「色を競ううちに中身の繊維がスカスカになる『中空パステル化』の進行が懸念される」と警鐘を鳴らすが、利益至上主義の若手株主たちは「光合成よりも映えの時代」と聞く耳を持たない。

このニュースを受け、湖底社会には静かな怒りと困惑が広がっている。老舗の「熟成層マリモ」を愛する投資家たちからは「重厚な歴史こそが資産価値だったはずだ」「目先の鮮やかさに飛びついて、百年分の光合成の努力を捨てるのか」といった悲痛な声が相次いでいる。一方で、新興勢力のSNS(藻・ネットワーク・システム)上では「#阿寒湖トレンド」というハッシュタグがトレンド入りし、鮮やかなネオングリーンに変貌した自身を誇示する投稿が相次いでいる。経済の健全性か、あるいは進化する美意識か。湖底経済は今、かつてないアイデンティティの危機に直面している。

世間の反応は真っ二つだ。「古臭い教条主義を捨てろ」と主張するテック系マリモや、「緑の深みこそが伝統」と懐古する保守派が対立。さらに、この騒動を利用して無害な染料を売りつける「湖底商社」による買い煽りも発生しており、市場の混乱は深まるばかりだ。一部の投機家は「いずれ着色料が剥げ落ちた時に大暴落が起きる」と予測し、空売り戦略を練っているという。このままでは、冬の訪れとともに色素が抜けた途端、全資産が紙屑同然になる『色彩バブル崩壊』のカウントダウンが始まろうとしている。