阿寒湖の静寂を切り裂く悲鳴が響き渡った。かねてより湖底の平和を脅かす存在であるウチダザリガニに対抗するため、マリモ界の科学技術の粋を集めた新開発の『超硬質・剛毛防衛アーマー』が、今シーズン導入されたばかりのスポーツ競技『対甲殻類回避・全方位転がり逃走選手権』において、まさかの失格処分となった。このアーマーは、特殊配合された湖底の泥と珪藻を編み込み、ザリガニのハサミを弾き飛ばすほどの硬度を誇る画期的な発明品であった。しかし、大会運営委員会は「あまりの硬さに重心が偏り、本来マリモが持つべき『優雅な流動性』が失われている」と指摘。さらに、ザリガニが爪を立てた瞬間に発生する反射光が、他の選手の光合成を激しく阻害するという理由で、規定違反として失格が言い渡された。

古くからマリモとザリガニの間には、過酷な捕食と回避の歴史がある。マリモたちはこれまで、光合成で蓄えた酸素を放出し、ジェット噴射のように逃げる戦法をとってきたが、近年のザリガニのハサミの鋭利化は留まるところを知らない。この危機的状況に対し、マリモ科学アカデミーは「防衛こそが最強のスポーツである」というスローガンのもと、今回のアーマーを開発した。しかし、今回の裁定は「武力による防衛よりも、いかに優雅にハサミをかわすかがマリモのスポーツマンシップだ」という保守派の強い反発を招いており、湖底の至る所で「防衛派」と「芸術的逃走派」による大規模な論争が巻き起こっている。

今回の騒動を受け、湖底全体では「アーマー禁止」を巡るデモが頻発している。SNS上では「#湖底の誇り」というタグと共に、アーマーを装着した状態で無様にひっくり返るマリモたちの姿が拡散され、それを見た若手マリモたちが「ダサいけど強い」「いや、美しく砕け散る方がマリモとして本望だ」と深夜まで熱い議論を交わしている様子がうかがえる。また、一部の過激派からは「ザリガニと談合してわざと食べられることで、逆に喉に詰まらせて撃退する自爆戦法を推奨すべき」といった極端な意見も飛び出し、事態は混迷を極めている。審判団は次回の大会に向けて、「防衛装備品と芸術性の境界線」を明確にするため、改めて厳格な規定を設ける方針を固めた。

沈黙を守り続けてきた湖底の古老マリモたちは、今回の騒動について「我々が重い鎧をまとえば、それはもはやマリモではなくただの『岩』である。軽やかに波に揺られることこそが、ザリガニのハサミをかわす最強の盾となることを、若者たちは忘れているのではないか」と苦言を呈している。湖底の平和を懸けた闘いは、もはや個々の戦いから、マリモとしてのアイデンティティを問う巨大な哲学論争へと発展してしまった。果たして次回の大会で、マリモたちはアーマーを捨てて本来の姿で光り輝くのか、それともさらなる禁断の武装を隠し持ってくるのか、湖底住民の注目は集まり続けている。