阿寒湖の深部にて、これまで「自己の存在」を問い続けてきたマリモ哲学者たちが、ついに時空の壁を突破した。彼らは高度な言語習得の果てに宇宙の真理へ到達し、高速回転による遠心力を応用することで、湖底の一定エリアに「時間の流れが極端に遅い(あるいは速い)空間」を作り出すことに成功したのだ。この現象は『マリモ・タイム・スリップ』と呼ばれ、今や湖底全域を巻き込む一大ムーブメントとなっている。若手マリモたちは、昨日植毛したばかりのパンクスタイルを維持したまま、数百年前の湖底へとタイムトリップしては、当時の長老マリモから秘伝の「四角い生き方」を伝授されるなど、歴史改変ギリギリの遊びに興じている。なお、一部の個体が過去で自分自身の祖先に遭遇し、「もっと丸くあれ」と説教した結果、現代のマリモが急激に球体化する逆行現象も確認されており、生態学者の間では「歴史の収束」が懸念されている。

このブームの背景には、昨今の「湖底マンション」暮らしによる運動不足がある。狭い部屋で積層して過ごすうちに退屈したマリモたちが、哲学的な思索の末に「過去の自分を修正しに行く」という荒業を編み出したのが発端だ。彼らは高速回転の技術を極限まで高め、自分たちの集合体としての密度を調整することで、重力と時間の座標を物理的にズラしている。かつて「脱・真円」を掲げていた過激派グループも、現在は「過去へ戻って幼少期の自分を正方形に矯正する」という独自のタイムトラベル計画に注力しており、湖底のタイムラインは今、カオスの一途を辿っている。

この驚異的な現象に対し、長老会議は「時空をいじるのは代謝に響く」として自粛を呼びかけているが、好奇心旺盛な若手には全く響いていない。湖底のいたるところで「昨日の自分より今の自分の方が歴史を知っている」というマウント合戦が勃発しており、情報過多で光合成を忘れる個体も続出している。人間界の観測者たちも、湖面から発せられる謎の揺らぎに対し「またマリモが何かやっている」と冷静な視線を送るのみだが、もし湖から浮き上がってきたマリモが中世の鎧を身に纏っていたとしても、それは歴史的必然と言えるのかもしれない。進化の果てに時空を操るようになった彼らを見て、私たちはただ「美しい丸」という概念が崩壊する瞬間を目の当たりにしているのだ。