阿寒湖で開催された第42回「湖底レイク・グランプリ」において、前代未聞の事態が発生した。昨年の準優勝者であるマリモ選手が、スタート直後に繰り出した新技『真空滑走(バキューム・ロール)』により、湖底の砂泥との摩擦を完全遮断。従来の「転がって進む」という概念を根底から覆す速度で湖中を滑走し、本来のゴール地点を大幅に通り越して対岸の観光桟橋まで到達する事態となった。審判団は「あまりの速さにマリモというよりは、もはや放たれた砲弾だった」と困惑を隠せない様子。この規格外の加速により、周辺の藻類たちは強烈な水流でなぎ倒され、水草たちは一時的に「避難勧告」が出るほどのパニックに見舞われたという。

本競技は、いかに美しい球体を保ちながら湖底を最短距離で転がれるかを競うスポーツであるが、今回の『真空滑走』は物理法則を無視した加速が問題視されている。通常、マリモは表面の繊細な毛並みを使って微細な推進力を得るが、今大会のマリモ選手は、自身の体表から特殊な粘液を分泌させ、氷上のカーリングストーンのように摩擦を極限まで低減させることに成功した。この手法は、まさに「光合成を捨てた加速」と評され、効率的すぎて逆にかっこ悪いという皮肉も飛び交っている。運営委員会は、今回の事例を重く見て「次年度より球体へのシリコンコーティング禁止」を明文化する予定だ。

近年、湖底界では「いかに効率よく移動するか」というテーマに、物理学や流体力学を持ち込む若手マリモが急増している。かつては数十年かけて数センチ移動するのが美徳とされていた「スローライフ・マリモ」派からは、「風情がない」「ただの球体弾丸だ」といった批判の声も上がっている。しかし、今回の圧巻のタイムを目撃した次世代のマリモたちは、こぞって摩擦係数の研究に没頭しており、湖底は今、空前の「超高速移動ブーム」に沸いている。かつての穏やかな湖底を知る長老マリモたちは、砂塵を巻き上げて走る若者たちを見て、ただ深く沈黙するばかりである。

この驚異的な爆走劇を受け、SNS上では「マリモってこんなに動けるの?」という驚きの声と共に、検証動画が次々と投稿されている。特に、対岸の桟橋に激突した際、マリモが一切のダメージを負わず、何食わぬ顔で毛繕いをしていた映像は、その剛体としての評価を爆上げした。一部の過激なファンからは「この移動術を応用して、人間界の物流革命を起こすべき」といった無茶な意見も散見される。次回の大会では、この『真空滑走』に対抗するべく、あえて表面をザラザラに加工してブレーキを強化した「アンチ摩擦派」の参戦も噂されており、湖底のスポーツ熱は冷めるどころか、ますます加熱の一途をたどっている。