放射線とは何か 放射線の実態と人体に及ぼす影響

最終更新日時 : 2017年7月29日
放射能のハザードシンボル

原子力発電関連のニュースなどで「放射線」や「放射能」という言葉を耳にすることが多くなったように感じます。

放射線が発電に使われる燃料から出るものであるということはニュースを聞いていれば何となく理解することができますが、どのような物質で、なぜ生物に悪影響を与えるのかを厳密に学ぶ機会は少ない気がします。

今回は、放射線発見の歴史から放射線の種類や特性について紹介したいと思います。

放射線の発見

放射線は、厳密には自然界に存在する「自然放射線」と、人工的に発生させることで現れる「人工放射線」に分けることができます。

初めて発見された放射線は、ウランという元素から発生する自然放射線でした。ウラン(天然ウラン)は地殻や海水中に含まれています。発見者はフランスの学者であるアントワーヌ・アンリ・ベクレル(Antoine Henri Becquerel)です。

アントワーヌ・アンリ・ベクレルの写真(パブリックドメイン)

ベクレルは、ウランからある光線が出ていることを発見しました。

ベクレルはウラン元素がガラスや黒い紙で隔てられているにもかかわらず、写真乾板を感光させ、またこの「光線」が検電器に感知することもみつけました(1896)。つまりこの「光線」は電荷を持っているわけです。いまではこの「光線」は放射線とよばれ、放射線をだす物質を放射性物質、そのような性質を放射能とよんでいます。
わかりやすい量子力学入門―原子の世界の謎を解く

放射能とは「放射線を出す性質」のことです(放射能の命名は後ほど紹介するマリー・キュリーによるものです)。

放射能を持つ物質を放射性物質と呼びます。

ベクレルが当時使った検電器は、現在のような高精度のものではなく「箔検電器」と呼ばれる以下のような装置です。

検電器(箔検電器)の構造

出典: はく検電器|ヤガミ 商品検索システム

この瓶の外側に出ている金属部分(電極)に電荷を持った物質が接触すると電極が帯電して、内部の2枚の金属箔に同じ種類の電荷(プラスまたはマイナス)が溜まり、反発することで箔が開きます。

箔検電器が放射線を検出する例

出典: ノーベル賞を受賞 ベクレルの功績 でんじろう先生のはぴエネ!:中京テレビ

つまり、ガラスや黒い紙で隔てたウランが箔検電器の金属箔を開いたため、電荷を持つ何かがウランから出ていることがわかったわけです。

様々な放射性物質と放射線の発見

ウランからの自然放射線の発見から数年後、ポロニウムラジウムという2つの元素も放射線を出すことが発見されました。この発見は、マリー・キュリー(Marie Curie)とピエール・キュリー(Pierre Curie)によるものです。

その後、フレデリック・ソディ(Frederick Soddy)によって、ラジウムが放射線を出して別の元素であるラドンに変化すること、つまり放射性崩壊放射性壊変)を発見しました。

後に、アーネスト・ラザフォード(Ernest Rutherford)が、ウランやトリウムの放射性崩壊によって放出される放射線の性質調査及び命名を行いました。発見された3種類の放射線は以下のようなものでした。

放射線の名前 放射線の実体 遮蔽可能なもの
α線(アルファ線) ヘリウムの原子核(二価のヘリウムイオン) 1枚の紙
β線(ベータ線) 電子そのもの 厚さ1mmのアルミニウム
γ線(ガンマ線) X線よりも波長の短い電磁波(光) 厚さ15mmの鉛

放射線(α線、β線、γ線)の遮蔽

参考: わかりやすい量子力学入門―原子の世界の謎を解くα線、β線、γ線の発見 (16-02-01-03) – ATOMICA –

α線、β線、γ線を出す放射性崩壊をそれぞれα崩壊β崩壊γ崩壊と呼びます。

ラザフォードはまた、原子核には中性子が存在することを予言しました。そして、ラザフォードの弟子であったジェームズ・チャドウィック(James Chadwick)が実際に中性子を発見し、同時にもう一つの放射線である中性子線を発見しています。

チャドウィックはベリリウム線を当てた物質から飛び出す粒子が電荷をもつということに注目し、ベリリウム線を様々な物質にあてて、飛び出した原子核の数を計りました。その結果から、ベリリウム線が陽子1個と同じ質量をもち電気的に中性である粒子からできていることを示しました。先ほどベリリウム線は透過力が強いと言いましたが、それは中性子でできている放射線は、電気的に中性なため、物質を通り抜けるときも正の電荷をもつ陽子や負の電荷をもつ電子に引っ張られて曲がることがないので、他の放射線に比べて物質を通り抜けやすいということです。
京都大学 高エネルギー物理学研究室 寺島和志 中性子の発見

中性子線は実態が中性子ですので、α線やβ線と異なり電荷を持たない放射線となります。

中性子線はによって遮蔽されます。水を多く含むコンクリートも有効であり中性子線の遮蔽に使用されます。

どのような放射線が放出されるかは、放射性物質である元素が持つ陽子と中性子のバランスによるとされます。

原子核に含まれる陽子と中性子の数のバランスが悪いと、その原子核は不安定となり、アルファ線やベータ線といった放射線を出して原子核が変化する(放射線を出す能力やその物質のことを放射能とよぶ)。
たとえば、コバルト60(60Co)の原子核には陽子27個と中性子33個があるが、中性子が多すぎるため、(中性子)→(陽子)+(電子)というベータ崩壊反応で、電子を原子核外に放出し(ベータ線)、陽子28個、中性子32個の安定なニッケル60(60Ni)に変化する。原子核が落ち着く際の余分なエネルギーは同時に、ガンマ線として放出される。
中性子とその被曝について 今中哲二(京都大学原子炉実験所)

放射線の人体への影響

放射線が原子に衝突すると、その原子の持つ電子を弾き飛ばしてしまいます。これが、放射線が生物に悪影響を及ぼす原因です。身体に放射線を受けることを被曝と言います。

人体の大部分は水であるため、中性子の人体への影響は、水に含まれる水素との衝突が重要となる。中性子によりはじき跳ばされた水素の原子核(陽子)は、周辺の分子をイオン化したりして細胞の構成分子を破壊する。
中性子とその被曝について 今中哲二(京都大学原子炉実験所)

被曝によって細胞やその中のDNAが損傷し、細胞の複製などに異常が生じることになります。

α線、β線、γ線の3つの放射線の中で α線 は最も簡単に遮蔽できますが、人体への影響は最も大きいとされます。

α線は紙一枚で止まってしまいますが、逆に言うと紙一枚の厚さの範囲に持っているエネルギーを全部一気に放出してしまうため、体の中でα線を出されるととても影響が大きくなります。
β線は水の中(=体の中)を最大で2mm弱進むことが出来、細胞から見ると比較的広い範囲にエネルギーを落としていき、また体の外から来た場合はほとんど皮膚で止まります。
γ線は透過能力は高く、遠くから飛んできて体の中までやってきますが、逆に体内に放出されてもほとんど素通りしていきます。
大阪府立大学 放射線研究センター 秋吉優史 放射線の基礎、利用、人体影響

同じ量の被曝でも、中性子線はガンマ線に比べて10倍以上の遺伝的な悪影響(染色体異常など)を引き起こすとされます。

中性子線とγ線の健康への影響の比較

出典: 中性子とその被曝について 今中哲二(京都大学原子炉実験所)

自然放射線 – 自然に存在する放射線

自然放射線から受ける放射線量

出典: 自然放射線 - 日常生活と放射線 | 電気事業連合会

前述の通り、ウランなどの放射性物質は地表や海水に含まれていますので、地球自体から様々な放射線が出ています。また、宇宙から降り注ぐ粒子を宇宙線と呼びますが、宇宙線には、α線を含む様々な放射線が含まれます。

宇宙線として降ってくる粒子のうちおよそ90パーセントは陽子1個でできた水素原子核、およそ9パーセントが陽子と中性子が2個ずつでできたヘリウム原子核、そしてほんの1パーセントが素粒子やヘリウム原子核よりも重たい原子核になります。…
岩や地中に含まれる放射性原子核から出るアルファ線やベータ線などの放射線はよく知られていますが、同様の放射線が空からも降り注いでいることが知られるようになったのは、今からおよそ100年前のことでした。1912年、オーストリアの科学者ヘスは高度5キロメートルまで気球を飛ばし、高度が高くなるほど放射線量が増えることを示しました。
東京大学宇宙線研究所: 研究所紹介: 宇宙線について

呼吸によっても取り入れられ、身近な食べ物にも微量含まれているとされます。

私たちの身の回りには多くの種類の放射性物質があり、私たちは食べ物や呼吸によってそれらを体内に取り込んでいます。カリウム(K)は自然界に存在するミネラルの一種で、人間の体内で塩分を低下させ血圧の上昇を制御するなど、健康を保つために必要不可欠な成分です。このカリウムにはK-40という放射性物質がごくわずか(0.01%程度)ですが、含まれています。このK-40も食べ物と一緒に体内に取り込んでいます。
鹿児島大学構内の自然放射線分布地図 自然放射線について

地域によっても自然放射線の量が異なり、国内では以下のような若干の違いがあります。

国内での地域による自然放射線量の違い

とは言え、100mSv(100ミリシーベルト)以下の被曝では発がんに統計的は差はないため、宇宙や地上からの被曝(0.4〜0.5mSv)や、上記の地域差による大きな健康上の影響があるわけではありません(シーベルトについては下記の記事を参照)。

出典: 大阪府立大学 放射線研究センター 秋吉優史 放射線の基礎、利用、人体影響

おしまい

一言で放射線といっても、様々な種類があることがわかりました。

実際にどれくらいの放射線を受けると健康被害が出るのかや、放射線に関わる単位であるシーベルトとベクレルの違いなどは、以下の記事をご覧ください。

放射線に関わる単位であるベクレルとシーベルトとグレイについて

その他の参考

筑波大学システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻 阿部豊研究室 放射性崩壊と放射能
放射線防護上の遮へい (09-04-10-03) – ATOMICA –

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